抗体製剤は舌を噛みそうな名前の製剤が多いですよね。オビヌツズマブ・ウステキヌマブ・・・など。
発音しにくいし、覚えにくいのですが、実はこれらは命名に規則性があります。
普通に薬の名前を覚えた方が記憶量が少ない・・・かもしれませんが、全く知らない薬剤でも、その使われる先や構造がなんとなく分かるので、知っておいて損はありません。
ーmabでしょ、知ってるという人は古いです!2021年から命名方法が変更されています。
旧命名方法
現在市場に出回っている薬剤の大半が、旧命名方法で名付けられているため、実臨床上はこちらを覚えた方が役に立つことが多いです。
旧命名方法は以下の図の通り、4つの要素でできています。

接尾語
まずは、接「尾」語からみていきます。
基本的には、これは有名な「-mab(=monoclonal antibody)=モノクローナル抗体」で固定です。
モノクローナル抗体とは、単一のB細胞クローンに由来する、均一な抗体を指します。
原義では、「単一の抗原を認識する」という定義もあったようですが、複数の抗原を認識しうる抗体製剤も「-mab」として命名されています。
なお、-mab以外の命名体系を持つ接尾語もあります。
- -cept
- 受容体として分子を捉える蛋白質がついた製剤のこと
- 接頭語 + -cept とシンプルに名付けられます
- 例えばエタネルセプトは、TNFα受容体をFc領域につけた蛋白質です。

抗体遺伝子
抗体をコードする遺伝子、という意味合いですが、より正確には
抗原結合部位である可変部をコードする免疫グロブリン遺伝子群 を指します。
これに種類が存在する理由として、製造方法の違いがあります。
最初に確立されたモノクローナル抗体の産生方法は、可変部のマウスの抗体で作成する方法でした。(定常部はヒト)

しかしマウスは当然人体にとっては異物なので、投与したときに様々な問題があります。
最大の問題は、中和抗体(抗体に対する抗体)が産生されることです。
- 中和抗体が産生されると
- 薬が中和されて効果がなくなる(投与していると効果がなくなる=二次無効)
- Infusion reactionが増える
- アナフィラキシーが増える などの問題が生じます。
そのため、マウスから、ヒトの由来の成分を多くした抗体が産生されるようになりました。
そこでその種類に応じて、以下の様に分類されます。

標的
その抗体製剤がどのような疾患をターゲットとして作成されているかを表します。
したがって、この部分をみると、だいたい何の薬かが分かります。各疾患の頭文字を取ったような標的になっているためある程度覚えやすいですね。
ただし量が多いのですべて覚えるのは現実的ではありません。臨床上は膠原病や腫瘍領域の薬剤が多いため、
-li-・-tu-が使われることが多いです。

接頭語
ここが薬独自の名前になります。
したがって、この部分以降は、すべて機械的に命名されているということですね。
具体例
知らない抗体であっても、上を参考にしながら予想してみてください
- インフリキシマブ=Infliximab
- リツキシマブ =Rituximab
- トシリズマブ =Tocilizumab
- パリピズマブ =Palivizumab
- アブキシマブ =Abciximab
- インフリキシマブ =Inf – li – xi – mab
- 免疫関連・キメラ抗体です
- 最初期に開発された抗TNFα阻害薬で、自己免疫疾患で主に使用します。
- 初期のためキメラ抗体で、そのため抗製剤抗体が作られやすく、二次無効が起きやすいです。
- 従って関節リウマチで使用する際には、メトトレキサートを併用することが「必要」です。(他の抗TNFα阻害薬は必須ではありません)
- リツキシマブ =Ri – tu – xi – mab
- 腫瘍関連・キメラ抗体です。
- 抗CD20抗体製剤で、CD20は主にB細胞に発現するため、これを破壊します。
- CD20陽性のリンパ腫に最初に開発されました。現在はB細胞をターゲットとして膠原病領域でもよく使用されます。(ANCA関連血管炎・全身性エリテマトーデスなど)
- B細胞を標的として破壊するため、二次無効は起きにくいとされます。(B細胞が抗体を産生するため)
- トシリズマブ =Toci – li – zu – mab
- 免疫関連・ヒト化抗体です。
- IL-6受容体抗体で、IL-6の受容体をブロックすることで、抗炎症作用を発揮します。
- 主に膠原病に対して使用しますが、COVID-19のサイトカインストームに対しても使用できます。
- パリピズマブ =Pali – vi – zu – mab
- ウイルス関連・ヒト化抗体です。
- 抗RSV抗体製剤で、RSウイルス(respiratory syncytial virus)のF蛋白に結合します。F蛋白はRSウイルスが宿主細胞へ侵入する際の膜融合に重要であり、パリビズマブはこれを阻害することで、RSウイルス感染の成立・重症化を抑えます。
- 主に、早産児、慢性肺疾患を有する乳幼児、血行動態に影響する先天性心疾患を有する乳幼児など、RSウイルス感染で重症化しやすい小児に対して、発症予防目的で使用されます。
- 注意点として、パリビズマブは治療薬ではなく予防薬です。すでにRSウイルス感染症を発症した患者に投与して治す薬ではなく、流行期に定期投与することで重症RSウイルス感染を予防する薬剤です。
- アブキシマブ =Ab – ci – xi – mab
- 心血管系・キメラ抗体です。
- 抗血小板GPIIb/IIIa抗体製剤で、血小板表面のGPIIb/IIIa受容体に結合し、フィブリノゲンを介した血小板凝集を阻害します。主にPCI時の血栓性合併症予防などを目的に開発・使用されました。
- 現在は出血の遷延や血小板減少などで、あまり使われていないようです。
新命名方法
旧命名方法との違い
旧命名方法では、マウスの割合などで名前を分け、接尾語はほぼ-mabで固定でした。
しかし抗体を作成する技術が進歩し、様々な抗体が作られるようになったため、旧命名方法だけでは、抗体を表現することが難しくなりました。
そのため、2021年からの新命名方法では、抗体製剤の形状の意味を含んだ接尾語が使われるようになりました。

接尾語
-tug, -bart, -mig, -mentの4つに分かれるようになりました。

それぞれ説明していきましょう。
前提として、免疫グロブリンの可変領域=V領域を持つものを以下の命名方法を使用します。
したがって、上で述べた-ceptは、可変領域を欠くため、やはりこの命名方法は使用しません。
命名には順番が重要です。以下の順番に合致するかをみて、当てはまらない場合は次の命名方法が当てはまるかを検討していきます。
-mig =multi-immunogloblin
名前のように、複数の標的を持つ抗体を指します。複数の標的を持てば、他の構造にかかわらず-migを名乗ります。

これにより、複数の抗原を1度に抑制でき、本来ならば複数の製剤を投与する必要があるところが1つで済んだり(実臨床上使いやすい、臨床試験が組みやすい)、抗原とT細胞を引き合わせて破壊させるなどの効果が期待できます。
現在存在する薬剤なら、オゾラリズマブ(Ozoralizumab)がこれに当たります。(命名は2021年基準の前でなされているため、Ozora-li-zu-mab)(オゾラリズマブは重鎖のみで抗原を認識できるラマの抗体を使っています)

-ment
Fab断片など、完全なIgG型ではなく、断片になっている抗体を指します。
上から順番に命名できるかを検討していくため、複数の抗体を持つ場合には形的に-mentであっても、 -migを名乗ります(Ozoralizumabなどは、その一例ですね。)
現行の薬剤であれば、ポリエチレングリコール(PEG)にFab領域を結合した、セルトリズマブ・ペゴル(Certo-li-zu-mab-pegol)がこれに当たります。

-bart
ここまで命名できていないということは、1種類の抗原のみを認識し、かつ完全なIgG型の製剤です。
そして、そのなかでも、定常領域に改変が存在する場合にこちらを命名します。
現行の薬剤でいえば、アテゾリズマブ(atezo-li-zu-mab)があります。抗PD-L1抗体製剤ですが、Fc領域を改変しており、PD-L1を発現する免疫細胞をADCCなどで過度に傷害しないようになっています。

-tug
ここまで命名できていないということは、1種類の抗原のみを認識し、かつ完全なIgG型の製剤です。
そして、そのなかでも、定常領域に改変が存在「しない」場合にこちらを命名します。
一番素直な抗体で、現在使用されている多くの薬剤が、分類するならこれになります。


