2026年5月17日に、アバコパン/タブネオス®を使用していた患者さんが20名死亡し、そのうち、胆管消失症候群を13名が生じていたというニュースが発表されました。
アバコパン/タブネオス®は、顕微鏡的多発血管炎(MPA)・多発血管炎性肉芽腫症(GPA)に対して適応を有している薬剤で、選択的C5a受容体阻害薬です。
また医療従事者や、特に膠原病の医師はより早く情報を得た方もいらっしゃると思いますが、同時に日本での販売元のキッセイから、以下の発表が出されています。
- 新規患者様への本剤の投与は控えてください。
- 継続投与中の患者様には、 下記に記載の本剤による肝機能障害のリスク及び代替治療について十分ご説明いただき、継続投与の是非を慎重にご判断ください。
PMDA 製薬企業からの適正使用等に関するお知らせ による
実質的には、新規の処方はできず、また継続についてもそのハードルが非常に高くなったといわざるをえません。なぜこのようなことになったのか。
実は、今回の発表の理由は、胆管消失症候群だけではありません。その理由や、胆管消失症候群とはなにか、またタブネオスが処方されている方はどうしたらいいのかも含めて説明します。
今回の発表が出されるに至った理由
大きくは以下の二つです。
- 胆管消失症候群をはじめとする重症の肝障害が出現するリスクが、本邦において認められたため
- 肝障害が出現することは元々臨床試験で分かっていた
- 本邦では海外よりも多い可能性は使用経験上示唆されていた
- これのみが取り下げの理由ではない
- タブネオスの有用性が確認されるに至った、ADVOCATE trialにおいて、重大な違反がある可能性があり、米国食品医薬品局(FDA)がその聞き取りの通知を出しているため
- 臨床試験の信頼性がなく、取り下げられる可能性があります。
それぞれみていきます。
胆管消失症候群とは
胆管消失症候群(vanishing bile duct syndrome:VBDS)とは、肝内胆管の進行性破壊と消失により胆汁うっ滞を引き起こす疾患で、病理学的には、門脈域の50%以上で胆管が欠損する胆管減少症(ductopenia)を特徴とします。
原因としては以下が考えられています。
- 薬剤性:抗生物質(クロキサシリン、ネビラピン)、カルボシステインなど
- 自己免疫疾患:原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎など
- 悪性腫瘍:ホジキンリンパ腫などの傍腫瘍症候群
- 移植関連:移植片対宿主病(GVHD)、同種移植拒絶反応
- 感染症:HIV感染、ウイルス性胆管炎など
- 虚血性胆管炎
Epub 2021 Jun 15. Erratum in: Semin Liver Dis. 2021 Aug;41(3):e1.
臨床上は以下の特徴があります。
- 採血
- ALP・γGTPの著増
- 総ビリルビンおよび直接ビリルビンの上昇(高ビリルビン血症)
- 激烈に上昇することが特徴のようです
- 症例報告(アバコパンによるものではないですが)では、初診時T-Bil 4.7 mg/dL→(5日目)14.3 mg/dL→(その後)45.6 mg/dL と通常の薬剤性肝障害では考えられない程度まで上昇しています。
- トランスアミナーゼ(AST、ALT)は正常から軽度上昇程度
- 画像所見
- 腹部エコー・腹部CT・MRI・MRCP上は正常
- 病理所見
- 診断には肝生検が必須です
- 門脈域の50%以上で胆管が欠損
- 小葉間胆管の進行性破壊と消失
- 胆管上皮の変性・壊死
- 胆汁うっ滞所見(肝細胞内や毛細胆管内の胆汁栓)
- 診断には肝生検が必須です
治療としては、被疑薬の中止、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、肝移植など、支持的な対処が中心になります。報告では死亡した患者20名のうち、直接的な死因との関係は不明ではありますが、13名がVBDSを呈してたとされ、高い死亡率を呈する可能性が示唆されます。
なお、悪性腫瘍関連VBDSでも、適切な治療がなければ致死率が高い傍腫瘍症候群であることが分かっています。 BMC Res Notes. 2014 Aug 14;7:529.
タブネオスにおける胆管消失症候群
本邦において発生したアバコパン使用後のVBDSの期間はすべて集計されています。
それを確認してみると、多くは投与後56日目までに発症しており、85日以降は記録されていません。
したがって、多くは投与初期に発生するものであることが分かります。それはVDRSのみならず重篤な肝障害においても同様です。

同一の症例に複数の有害事象が存在するものも含まれるため、グラフ中の件数と実際の症例数は一致しません。
本剤との因果関係は必ずしも明らかでないものも含まれます。
したがって、新規導入の方は注意する必要がありますが、すでに一定の期間使用している方は、必要以上に恐れる必要はありません。主治医とアバコパンを続けることによるよい点、悪い点を相談して個別に決定するべきと考えます。
ADVOCATE trialにおける重大な違反の疑い
元々アバコパンは、(日本での販売はキッセイですが)アムジェン社の完全子会社であるケモセントリクス社によって開発されました。
米国食品医薬品局(FDA)の下部組織である医薬品評価研究センター(CDER)は、アバコパンのアメリカにおける承認の取り消しを提案する旨を公表しました。(まだ取り消しが決定されたわけではない 2026/05現在)
その理由について、キッセイ薬品工業からの公式文書には以下のようにあります。
「ADVOCATE 試験において、盲検化されていない担当者が、当初の解析では有効性を支持しない結果であることを知った上で中央判定委員会に再判定を依頼し、薬剤が有効であるように見せた」
ADVOCATE試験とは、アバコパンが承認される決め手となった臨床試験です。
顕微鏡的多発血管炎(MPA)・多発血管炎性肉芽腫症(GPA)に対して、通常の治療に加えて、アバコパンを使用した患者さんと,そうでない患者さんを比較して、治療効果がどうか、またグルココルチコイド(ステロイド)の使用量が減少できるかを調べた試験です。
結論では、アバコパンを使用した方が、52週においての持続的寛解率が有意に高かった、としています。
本来試験中は、プラセボ(偽薬)を使うことによって、試験中の患者さん、主治医は使っている薬剤が門物なのかどうか分からなくなっています。(二重盲検という)
薬が本物かどうかが分かってしまうと、主治医が贔屓にみたり、患者さん自身がより効いたのではないかと考えてしまい、正確な薬剤の能力を比較できなくなるためです。
そして、1度臨床試験が終了した後は、そのデータは固定され、通常はいじれなくなります。しかしADVOCATE試験においては、盲検化されていない、即ちどちらが本物の薬を使っていたかが分かる立場の人間が、有効性を示すためにデータをいじった疑いがあるわけです。
これが本当なら明確な違反行為であり、試験そのものの信頼性は失われます。
- ベースのプロトコル
- 寛解判定は52週時のBVAS=0かつ直近のAAV治療目的GC使用なし、という形で、盲検下のadjudication committeeが判断。
- 評価期間内に寛解・持続寛解が評価できない場合は「非寛解/非持続寛解」として扱う
- データ変更
- 2019年11月5日にデータベースがロックされ、盲検解除された。
- その後、ChemoCentryx側の一部担当者が非盲検データを見たうえで、9例について再判定を求めた
- 実際の変更
- 具体的な9例は、プレドニゾン群3例、アバコパン群6例。
- プレドニゾン群も変更しているなら結果には大きな影響はない?と考えてしまいますが、細かくみると異なります
- プレドニゾロン群は26週寛解のみ変更しており、アバコパン群は5例が52週寛解も変更しています!
| 群 | 症例 | 26週寛解 | 52週持続寛解 |
|---|---|---|---|
| プレドニゾン群 | 428-001 | No→Yes | Noのまま、早期中止 |
| プレドニゾン群 | 852-001 | No→Yes | Noのまま |
| プレドニゾン群 | 957-002 | No→Yes | Noのまま、早期中止 |
| アバコパン群 | 440-002 | No→Yes | No→Yes |
| アバコパン群 | 466-003 | No→Yes | No→Yes |
| アバコパン群 | 534-001 | No→Yes | No→Yes |
| アバコパン群 | 702-001 | No→Yes | No→Yes |
| アバコパン群 | 751-001 | Yesのまま | No→Yes |
| アバコパン群 | 854-001 | No→Yes | Noのまま |
- 変更した結果
- 2019年11月5日のデータベースロック後の解析では、主要評価項目(52週の寛解)は、p=0.1025、つまり統計学的に有意ではなかった
- 9例再判定後、2019年11月20日に再ロックされたものでは、p=0.0132であり、FDA申請上は「有意」として提出されました
- FDA(米国食品医薬品局)の解釈
- データ再判定について ・・・ FDAは、この9例の再判定には正当な基礎データ変更がなく、もともと禁止されていた「データベースロック・盲検解除後の再判定」に当たるとしている。
- 変更後の有意差について ・・・ Type I errorが制御されていない事後的・非計画的な再解析なので、意味のあるp値として解釈できないとしている。
- 修正したChemoCentryxによれば、単に誤ったデータを修正しただけのようですが、FDAはそうは考えていないようです
- そもそも、最終的に提出されたデータは、それ以前にロックを解除して修正したことは伏せられていたようで、意図的な可能性を指摘されています。
注意したいのは、これは、アバコパンが効果がない、ということではありません。
アバコパンの効果は科学的に証明できない、という表現が正しいです。つまり、本当は効果がやはりあるかもしれませんが、それを科学的に示していた証拠が間違っていたということです。
なお欧州でも欧州医薬品庁(EMA)が、ADVOCATE 試験におけるデータの整合性に疑義が生じたとして、EMA の欧州医薬品委員会(CHMP)によるレビューを開始したとあり、欧米でも同様の動きになっていることから、本邦でもこの発表に踏み切られたものと考えられます。
本邦では、必要な情報を医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提供し、厚生労働省を含めて協議を進めているところ、とされていて、続報を待つ必要があります。
PMDA 製薬企業からの適正使用等に関するお知らせ による
2026年6月のアップデート
厚生労働省からいわゆるブルーレターが発令
ブルーレターとは厚生労働省・PMDA(医薬品医療機器総合機構)から出される、安全性速報のことです。似たものにイエローレターもあります。
- ブルーレター(安全性報告)
- 基本的にはイエローレターと同じだが、一般的な添付文書改訂情報よりも迅速な安全対策措置が必要と判断された場合に、厚労省の配布指示に基づき製造販売業者が作成する情報のこと。イエローレターよりは緊急性が低い
- 患者向けの資材は必須ではない
- イエローレター(緊急安全性報告)
- 「緊急に安全対策上の措置をとる必要がある」と判断された場合に、厚生労働省の配布指示に基づき、製造販売業者が作成する情報のこと。
- 患者向け資材が必須。
これによって添付文書に【警告】が追加されました。
胆管消失症候群を含む重篤な肝機能障害があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されているので、本剤投与開始前及び投与中は定期的に肝機能検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。本剤投与中に重篤な肝機能障害がみられた場合には、本剤の投与を中止する等の適切な処置を行うこと。
また、細かい検査頻度・中断・中止基準が設定されました。
- 検査頻度
- 投与開始前、投与開始後3か月間は少なくとも2週に1回、その後3か月間は少なくとも4週に1回、6か月目以降も定期的に肝機能検査
- このようになっているのは、85日目以降の肝障害発症が報告されていないことに由来すると考えられます。
- 中断・中止基準
- ALTまたはASTが基準値上限の3倍超なら投与中断し速やかに評価
- ALT/ASTが8倍超、ALT/AST 5倍超が2週超持続、総ビリルビン2倍超、ALP 2倍以上、黄疸・そう痒などがある場合は中止
- 胆管消失症候群が疑われる場合は速やかに中止
日本でもアメリカでも薬剤の取り消し自体はまだ決まっていない
2026/07/01 現在は、日本でもアメリカでも使用は可能です。(アメリカではFDAが承認取り消しを提案)
ただ前述の注意点に気をつけ、新規の投薬は原則行わないことになっています。
ADVOCATE trialが取り消し
2026年6月29日、ADVOCATE trialが掲載されたNew England Journal of MedicineからADVOCATE trialが取り下げされました。
前述の具体的な違反を重くみた結果のようです。
最終更新:2026/07/01
頻繁にアップデートされる項目ですので,一部は最新情報より遅れている可能性があります。
また内服している患者さんにおいては、不安や心配があれば必ず主治医に相談しましょう。

