医学を勉強する上で、医学論文を読むという方法があります。
論文にも多様な種類がありますが、読むべき重要なものにランダム化比較試験(RCT)があります。歴史的に重要なRCTは、その科を専門にするためには一読することをお勧めしますが、漫然とダラッと読んでも全然頭に入りません。ではどのように把握すればよいか。
RCTを理解するために最も重要なことは、その論文の必要性を理解することです。
それには幾つか種類がありますが、大きくは以下の3つだと考えています。
- 歴史的に使っていた治療が本当に有効なのかを調べたい
- 誰がどう考えても有効な治療についてはRCTは実施しても意味がない
- 効くけど副作用が多くて使いにくい場合、使ってはいるが本当に有効なのか誰にもよく分かっていない場合(特に重症例に使用する場合など)
- 有効と分かっている治療と似たような治療が有効かを調べたい
- これは必ずしも違う薬剤ではなく、投与方法・レジメンの違いや容量の違いのこともある
- 具体例
- シクロホスファミド点滴と、ミコフェノール酸モフェチル
- シクロホスファミド点滴と、シクロホスファミド内服
- グルココルチコイド高用量と低用量
- 新しい治療の有効性・安全性を示したい
- 新薬と過去からの治療を比較する場合と、新薬を普通の治療に追加してみて効果があるかを比較する場合があります。
いまから読む論文がこれらのどれに当たるかを考えることが重要です。
具体例をみてみましょう。
PEXIVAS trialは、血漿交換(PE)が、重症腎病変のあるANCA関連血管炎において有用かどうかを調べた研究です。
特に重症のANCA関連血管炎においては歴史的に血漿交換が使用されてきました。(体内からANCAを取り除くため)ただそれが有効かどうかは意見の分かれるところではありました。
PEXIVAS trialにおいては、重症の腎病変がある患者に対して、PEを併用した群としない群をランダム化して比較しました。結論としては、PEを実施することの利点は明らかには示せませんでした。

LoVAS trialは、ANCA関連血管炎において、グルココルチコイドの一般的な量と、そこから減量した量で寛解導入したときに差が生まれるかを示した研究です。
ANCA関連血管炎は寛解導入においてグルココルチコイドを使用することは必要不可欠ですが、その適切な量は分かっていません。歴史的にはプレドニゾロンを体重あたり1mg(体重60kgなら60mg)で1−2週間使用していましたが、これよりも少ない量でもいいのではないかという実感がありました。
また、先行研究である前述のPEXIVAS trialでは、プレドニゾロンの量を減らした方法の有効性でもRCTが組まれており、そちらについては有用性が確認されました。
LoVAS trialは、ANCA関連血管炎に対して、PEXIVAS trialよりもさらに少ないプレドニゾロンの量で寛解導入して有効かを比較し、その有用性を確認した試験です。

巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎・GCA)は、グルココルチコイドを使用して寛解導入される膠原病です。ただグルココルチコイドを減量していくと再燃することが問題となっていました。またGCAは病態にIL-6が関与していると考えられ、これを抑えることで再燃を減らし、さらにグルココルチコイドを減らすが可能なのではと考えられました。
GiACTA trialは、新規・再燃のGCAに対して、IL-6受容体阻害薬であるトシリズマブ(アクテムラ®)を寛解導入に使用して、使用しない群と比べて、寛解維持率・グルココルチコイドの減量できるかを検討した試験です。トシリズマブを併用した方が寛解を維持でき、グルココルチコイドを減量できることが分かりました。
この論文の特徴の1つに、グルココルチコイドの投与量が決まっている点です。臨床試験においては主治医の判断でグルココルチコイドを減量するものもあるなか、グルココルチコイドの減量方法が明確に示されています。

これらの論文の説明をわかりやすくしている理由として、背景を説明している点にあります。試しに背景を除いて書いてみると
LoVAS trialは、ANCA関連血管炎に対して、PEXIVAS trialよりもさらに少ないプレドニゾロンの量で寛解導入して有効かを比較し、その有用性を確認した試験です。
確かに内容は理解できるのですが、頭に入ってきかたが違いますね。前の説明を読み直してみると、
LoVAS trialは、ANCA関連血管炎において、グルココルチコイドの一般的な量と、そこから減量した量で寛解導入したときに差が生まれるかを示した研究です。
ANCA関連血管炎は寛解導入においてグルココルチコイドを使用することは必要不可欠ですが、その適切な量は分かっていません。【現在の臨床の状況】
歴史的にはプレドニゾロンを体重あたり1mg(体重60kgなら60mg)で1−2週間使用していましたが、これよりも少ない量でもいいのではないかという実感がありました。【臨床上の要求】
また、先行研究である前述のPEXIVAS trialでは、プレドニゾロンの量を減らした方法の有効性でもRCTが組まれており、そちらについては有用性が確認されました。【先行研究】
LoVAS trialは、ANCA関連血管炎に対して、PEXIVAS trialよりもさらに少ないプレドニゾロンの量で寛解導入して有効かを比較し、その有用性を確認した試験です。
必要性を理解するためには、その背景を理解することが必要ということです。
背景を分解すると、このような要素に分けられると思います。
- 現在の臨床の状況
- 分かっていること、分かっていないこととも言い換えられます。
- この薬が効くのは分かっているけど、その正確な量は分かっていない、など。
- 臨床上の要求
- 上と共通することも多いですが、現状のうえで、具体的に何が興味の的かということです。
- 即ち、臨床試験を組む動機となった内容とも言えます。
- 先行研究
- 同じような動機に対して、すでに行われている研究です。
- 当然全く同じ研究をしても基本的には意味はないわけですから、前の研究で示せなかったことや異なる患者層に対して行うものです。
- これは知識もありますが、論文を読む際の最初に提示されることも多いです。
ここまでのまとめです。
- 現在の臨床の状況 (分かっていること・分かっていないこと)
- 臨床上の要求 (何に興味があるのか?)
- 先行研究
概ね以下に分類できます
- 歴史的に使っていた治療が本当に有効なのかを調べたい
- 有効と分かっている治療と似たような治療が有効かを調べたい
- 新しい治療の有効性・安全性を示したい
これをどこで確認すればいいのかというと、論文の最初に書いてあります。
具体的にみてみましょう。VALOR trialの最初のところを抜粋しました。

Dermatomyositis is a systemic autoimmune disease characterized by inflammation and progressive damage to the muscles, skin, lungs, joints, heart, and gastrointestinal tract.
This condition often follows a chronic, unpredictable, and protracted disease course, factors that contribute to substantial morbidity, impaired quality of life, and disability in affected patients.
Current therapies, including combinations of systemic glucocorticoids, nonspecific disease-modifying antirheumatic drugs (DMARDs), and intravenous immune globulin, are associated with incomplete efficacy, treatment-related toxic effects, and challenges with administration.
As such, there is a substantial unmet need for safe and effective treatment options for patients with dermatomyositis.
Recent evidence regarding causative agents supports the central role of proinflammatory cytokines (including type I and II interferon, interleukin-6, interleukin-12, and interleukin-23) in the immunopathogenesis of dermatomyositis.
Tyrosine kinase 2 (TYK2) and Janus kinase 1 (JAK1) mediate signal transduction of these cytokines, which provides a therapeutic rationale for targeted inhibition. Brepocitinib is an oral, selective TYK2–JAK1 inhibitor that may offer potential benefit for patients with dermatomyositis. We performed the Study to Investigate the Efficacy and Safety of Brepocitinib in Adults with Dermatomyositis (VALOR) to evaluate the efficacy and safety of brepocitinib as compared with placebo in adults with dermatomyositis.
ここでは英語を読むことが主眼ではありませんので、私を含め英語が苦手な方のために、日本語に訳します。
これを先ほどのSTEPに当てはめて、STEP-1の①②③、STEP-2のどれか、を決定してみましょう。
皮膚筋炎は、筋肉、皮膚、肺、関節、心臓、消化管に炎症と進行性の障害をきたすことを特徴とする全身性自己免疫疾患である。この疾患はしばしば、慢性で、予測不能で、長引く経過をたどる。これらの要素は、患者における重大な病気による負担、生活の質の低下、および身体機能の低下につながる。現在の治療法には、全身性グルココルチコイド、非特異的な疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、および静注免疫グロブリンを組み合わせた治療などが含まれる。しかし、これらは効果が不十分であること、治療に関連した毒性があること、投与方法に課題がある。
したがって、皮膚筋炎患者に対して、安全かつ有効な治療選択肢に対する大きなアンメット・ニーズが存在する。
皮膚筋炎の免疫病態形成において、炎症性サイトカイン、すなわちI型およびII型インターフェロン、インターロイキン-6、インターロイキン-12、インターロイキン-23などが、中心的な役割を果たすエビデンスが近年でてきている。。
チロシンキナーゼ2(TYK2)およびヤヌスキナーゼ1(JAK1)は、これらのサイトカインのシグナル伝達を媒介しており、このことは標的阻害に対する治療上の根拠となる。Brepocitinibは、経口の選択的TYK2–JAK1阻害薬であり、皮膚筋炎患者に対して有益である可能性がある。
われわれは、成人皮膚筋炎患者において、プラセボと比較したbrepocitinibの有効性および安全性を評価するために、成人皮膚筋炎患者におけるBrepocitinibの有効性および安全性を検討する試験、すなわちVALOR試験を実施した。
- 現在の臨床の状況
- 分かっていること
- 皮膚筋炎は、筋肉、皮膚、肺、関節、心臓、消化管に炎症と進行性の障害をきたすことを特徴とする全身性自己免疫疾患である。この疾患はしばしば、慢性で、予測不能で、長引く経過をたどる。これらの要素は、患者における重大な病気による負担、生活の質の低下、および身体機能の低下につながる。現在の治療法には、全身性グルココルチコイド、非特異的な疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、および静注免疫グロブリンを組み合わせた治療などが含まれる。
- 分かっていないこと
- しかし、これらは効果が不十分であること、治療に関連した毒性があること、投与方法に課題がある。
- 分かっていること
- 臨床上の要求 (何に興味があるのか?)
- (これらは効果が不十分であること、治療に関連した毒性があること、投与方法に課題がある。)内容が一部かぶります
- したがって、皮膚筋炎患者に対して、安全かつ有効な治療選択肢に対する大きなアンメット・ニーズが存在する。
- 先行研究
- 皮膚筋炎の免疫病態形成において、炎症性サイトカイン、すなわちI型およびII型インターフェロン、インターロイキン-6、インターロイキン-12、インターロイキン-23などが、中心的な役割を果たすエビデンスが近年でてきている。
- チロシンキナーゼ2(TYK2)およびヤヌスキナーゼ1(JAK1)は、これらのサイトカインのシグナル伝達を媒介しており、このことは標的阻害に対する治療上の根拠となる。Brepocitinibは、経口の選択的TYK2–JAK1阻害薬であり、皮膚筋炎患者に対して有益である可能性がある。
- 記載はありませんが、BrepocitinibのPhase 1,2 trialももちろん先行研究に当たります。
概ね以下に分類できます
- 歴史的に使っていた治療が本当に有効なのかを調べたい
- 有効と分かっている治療と似たような治療が有効かを調べたい
- 新しい治療の有効性・安全性を示したい
これで整理して論文を把握できました。
ただざっと読むより、頭が整理できたのではないでしょうか。
新薬のRCTについては先行研究がそこまで重要ではないことが多いですが、既存治療の組み合わせではそうはいかないことが多いです。別の試験もみてみましょう。PEXIVAS trialです。

End-stage kidney disease (ESKD) and premature death remain common among patients with antineutrophil cytoplasmic antibody (ANCA)–associated vasculitis who present with reduced kidney function or pulmonary hemorrhage. Poor outcomes are attributed to a delay in diagnosis and to the use of treatments that have a slow onset of action, incomplete efficacy, and toxic effects. More effective, safer therapies are needed.
The rapid removal of ANCAs by means of plasma exchange may reduce organ damage from ANCA-associated vasculitis. However, the effect of plasma exchange added to immunosuppressive therapy as compared with immunosuppressive therapy alone on clinically important outcomes, such as death and ESKD, is uncertain.
High-dose glucocorticoids were the first treatments found to be effective in ANCA-associated vasculitis, and they remain a cornerstone of disease management. However, glucocorticoids have numerous dose-dependent adverse effects, and high-quality data are lacking regarding an effective and relatively safe rate at which glucocorticoid doses can be tapered in patients with ANCA-associated vasculitis.
We conducted the PEXIVAS trial in patients with severe ANCA-associated vasculitis to compare the efficacy of plasma exchange with no plasma exchange with respect to death or ESKD. The trial also compared a reduced-dose regimen of glucocorticoids with a standard-dose regimen over the first 6 months of the treatment period to determine whether the reduced dose was noninferior to the standard dose with respect to death or ESKD.
日本語は以下です。
末期腎不全、すなわちend-stage kidney disease(ESKD)および早期死亡は、腎機能低下または肺胞出血を呈するANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の患者において、依然としてよくみられる。
転帰不良の原因としては、診断の遅れに加えて、効果発現が遅く、有効性が不完全で、毒性を伴う治療が用いられていることが挙げられる。より有効で、より安全な治療法が必要とされている。
血漿交換によってANCAを速やかに除去することは、ANCA関連血管炎による臓器障害を軽減する可能性がある。
しかし、免疫抑制療法に血漿交換を追加した場合に、免疫抑制療法単独と比較して、死亡や末期腎不全といった臨床的に重要な転帰にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。
高用量グルココルチコイドは、ANCA関連血管炎に有効であることが最初に示された治療法であり、現在も疾患管理の中心的な治療であり続けている。
しかし、グルココルチコイドには用量依存性の有害事象が数多く存在する。また、ANCA関連血管炎患者において、グルココルチコイドをどの程度の速度で減量すれば有効かつ比較的安全であるかについては、質の高いデータが不足している。
われわれは、重症ANCA関連血管炎患者を対象として、死亡または末期腎不全に関して、血漿交換を行う場合と行わない場合の有効性を比較するために、PEXIVAS試験を実施した。
また本試験では、治療開始後最初の6か月間において、グルココルチコイドの減量投与レジメンと標準投与レジメンを比較した。これは、死亡または末期腎不全に関して、減量投与が標準投与に対して非劣性であるかどうかを判定するためであった。
- 現在の臨床の状況
- 分かっていること
- 末期腎不全、すなわちend-stage kidney disease(ESKD)および早期死亡は、腎機能低下または肺胞出血を呈するANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の患者において、依然としてよくみられる。転帰不良の原因としては、診断の遅れに加えて、効果発現が遅く、有効性が不完全で、毒性を伴う治療が用いられていることが挙げられる。
- 血漿交換によってANCAを速やかに除去することは、ANCA関連血管炎による臓器障害を軽減する可能性がある。 ・・・これはMEPEX trialで確認されました。(本文中ではANCAそのものが有害である基礎研究が主に引用されています。MEPEXは後にDiscuccionで引用されます)
- 高用量グルココルチコイドは、ANCA関連血管炎に有効であることが最初に示された治療法であり、現在も疾患管理の中心的な治療であり続けている。
- 分かっていないこと
- しかし、免疫抑制療法に血漿交換を追加した場合に、免疫抑制療法単独と比較して、死亡や末期腎不全といった臨床的に重要な転帰にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。
- しかし、グルココルチコイドには用量依存性の有害事象が数多く存在する。また、ANCA関連血管炎患者において、グルココルチコイドをどの程度の速度で減量すれば有効かつ比較的安全であるかについては、質の高いデータが不足している。
- 分かっていること
- 臨床上の要求 (何に興味があるのか?)
- 重症ANCA関連血管炎患者を対象として、死亡または末期腎不全に関して、血漿交換を行う場合と行わない場合の有効性
- 死亡または末期腎不全に関して、減量投与が標準投与に対して非劣性であるかどうか
- 先行研究
- 血漿交換によってANCAを速やかに除去することは、ANCA関連血管炎による臓器障害を軽減する可能性がある。 ・・・これはMEPEX trialで確認されました。
概ね以下に分類できます
- 歴史的に使っていた治療(血漿交換)が本当に有効なのかを調べたい
- 有効と分かっている治療(高用量投与)と似たような治療(低用量投与)が有効かを調べたい
- 新しい治療の有効性・安全性を示したい
PEXIVAS trialの場合、血漿交換の有効性とグルココルチコイドの減量投与の有効性という2つを示そうとしたTrialのため、2つの組み合わせになっています。これによってRCTの意義をわかりやすく把握できました。
実は、これらの要素の中で論文把握に重要な部分は、先行研究です。
先行研究について
これは論文にその場で引用されていれば分かりやすいですが、場合によってはDiscussionで引用されるなど、知っていないと、なかなかたどりにくいものではありますが、論文のこの先を把握する上で非常に重要です。
論文から引用文献を当たってももちろんよいのですが、手っ取り早く把握するには、その分野のReviewなどを読むのがまとまっています。
間質性肺炎など、先行研究と呼べるRCTがほとんどない分野もあるのですが、比較的把握しやすいものとしては、MPA/GPAの主に腎炎に対するRCT、ループス腎炎に対するRCTでしょう。
先行研究を理解し、以降の論文の読み方についてはまたの機会にまとめようと思います。

