生物学的製剤とは(患者さん向け)

「膠原病」の治療がはじまったら

この記事は患者さん向けです。

関節リウマチや膠原病の治療において、最近は「生物学的製剤」という薬を使うようになってきました。この生物学的製剤の普及によって、関節リウマチ治療は一段階進んだといっても過言ではありません。

このページでは、生物学的製剤とは何か、どのような種類があるのか、利点・欠点などについてわかりやすく説明します。

生物学的製剤とは何か

  • 「生物学的製剤」とは、生物が産生する蛋白質を利用した薬剤、のこと
  • さまざまな種類があり、膠原病を含む、多様な病気に使用されている。
  • 膠原病においては、異常な免疫を押さえる目的で使用する。
  • この薬剤の開発によって、膠原病の治療は大きく進歩した。
  • 同時に、この薬剤独自の副作用や欠点もある。

「生物学的製剤」とは、生物が産生する蛋白質を利用した薬剤、のことです。

我々人間を含めて、生物は様々な蛋白質を産生して生命活動を維持していますが、この蛋白質を一部改変して、特定の効果を持たせた薬剤の総称です。

なので、どのような蛋白質を、どのような目的で改変したかによって、様々な種類があり、膠原病のみならず多様な病気に対して使われるようになってきています。

膠原病の領域においては、免疫に関係する蛋白質を元にして、異常になった免疫を押さえる目的で使用されます

最近の科学技術の発達によって、蛋白質を自由に改変することが可能になったため、このような薬剤が登場するようになりました。このおかげで関節リウマチをはじめとした、膠原病の治療は大きく進歩したと言えます。しかし一般的な薬剤と異なる蛋白質の薬のため、欠点もいくつかあります。

以下では、膠原病の領域における生物学的製剤の話を主にしていきます。

 膠原病に関してはこちらのページを参照ください

生物学的製剤の種類

具体的な薬の種類

生物学的製剤にはどのような種類があるのでしょうか。

ここでは膠原病に対して使う生物学的製剤について記載します。

治療ターゲットによる種類

膠原病とは、簡単にいえば「免疫」の異常です。

本来は、外敵の排除に働くべき免疫が、自分の体を攻撃してしまうことで起きると考えられています。

免疫は「サイトカイン」と呼ばれる独自の連絡網を使って、体から外敵を発見し、これを排除するしくみを持っています。

この、サイトカインを抑えることによって、異常な免疫を制御することが、生物学的製剤の目的です。

サイトカインは、細胞にある「受容体(レセプター)」を連絡の受け取り口として、ここにサイトカインが結合することによって細胞内シグナルと呼ばれる刺激が入ることで、細胞から細胞へと情報を伝達します。

サイトカインには様々な種類がありますし、上の図の流れのどこを、どのように抑えるかによって薬の種類が変わってくるのです。

まとめると、膠原病で使う生物学的製剤の種類は、

  • 抑えるサイトカインの種類
  • サイトカインの抑え方 

によって決まります。

免疫の仕組みについては、膠原病のページもご参照ください

抑えるサイトカインの種類

生物学的製剤は、抑えるサイトカインの種類・サイトカインの抑え方によって大きく分けられます。

  • TNFα(ティーエヌエフ・アルファ)を抑える
  • IL-6(インターロイキン・シックス)を抑える
  • IL-5(インターロイキン・ファイブ)を抑える
    • メポリズマブ(ヌーカラ®)
    • ベンラリズマブ(ファセンラ®)
  • T細胞による活性化を抑える
    • T細胞共刺激調整薬 アバタセプト(オレンシア®)
  • B細胞を抑える
    • 抗CD20抗体 リツキシマブ(リツキサン®)

それぞれ薬剤については、リンクを参照してください。

生物学的製剤の利点

生物学的製剤の利点は主に3つあります。

  • 効果が高い
  • 様々な膠原病に対して効果が期待できる
  • (特にステロイドと比較して)副作用が少ない

それぞれについて詳しく述べていきます。

①効果が高い

昔から使われてきた免疫を抑える薬剤は、特定の免疫、というよりは幅広く免疫を抑える効果のものが多いです。

そのため、異常な免疫を中心に抑えることができる生物学的製剤のほうが効果が高いといえます。

ただしステロイドだけは別で、ステロイドの方が、効果が早く、強いといえます。

ではなぜステロイドを使わないのかというと、ステロイドは副作用が極めて多いからです。そのため、その代わりとなる薬を開発してきたという歴史があります。

ステロイドの副作用についてはこちらのページを参照ください。

②様々な膠原病に対して効果が期待できる

膠原病はさまざまな種類の病気を含んでいますが、一つの生物学的製剤が、様々な膠原病に共通して使用できることがあります。それは異なる膠原病であっても、病気に関与するサイトカインや免疫の細胞が一部共通することがあるからです。

例えば、関節リウマチで使用するTNFα阻害薬は、潰瘍性大腸炎にも使用することがあります。

これによって、一つの生物学的製剤で、様々な病気を治療することが可能になりました。

③副作用が少ない

過去の膠原病に対する治療は、基本的にはステロイドしかありませんでした。

ステロイドは確かに膠原病には絶大な効果があるものの、極めて多彩な副作用があり、長期間にわたって高い容量で用いると必ず副作用が生じ、それによって大きく生活を制限されることが常でした。

しかし、生物学的製剤の登場によって、使用するステロイドの量が大きく減らせる方が増え、副作用を抑えられるようになりました。生物学的製剤に副作用がないわけではありませんが、長期間使用してもステロイドのように必ず副作用が出るわけではないため、間違いなくステロイドよりは長く使いやすい薬と言えます。

ステロイドの副作用についてはこちらのページを参照ください。

生物学的製剤の欠点

生物学的製剤の欠点は主に4つあります。

  • 注射しかない
  • 費用が高い
  • 使用していると効かなくなることがある
  • 特殊な副作用が出る場合がある
注射しかない

生物学的製剤は、「生物学的製剤」とは、生物が産生する蛋白質を利用した薬剤、のことです。

つまりは、薬そのものは蛋白質で構成されています。

したがって、普通に口から内服すると、消化する際に分解されてしまい、効果を発揮することができません。

そのため、注射で直接体内に薬を入れる方法しかないのです。

注射での投与の方法自体は2種類あります。

  • 点滴 ・・・病院で点滴をする場合と同じ。基本的には外来で行う。
  • 皮下注射 ・・・予防接種と同様に、皮膚に注射する。
    • ペン製剤 ・・・自分で簡単に注射できるようにした製剤です。
      • 別名:オートインジェクター・オートクリックスなど薬によって名前が異なります。
    • シリンジ製剤 ・・・病院で使うような注射器に入った薬剤です。

・ペン製剤の見た目

中外製薬 アクテムラ皮下注162mgオートインジェクター

・シリンジ製剤の見た目

中外製薬 アクテムラ皮下注162mgシリンジ

薬剤の種類によって、2種類ともあるもの、片方の種類のみがあるものがあります。

一般的には、ペン製剤があるものは、それをつかってご自宅で注射していただくことが多いです。その方が、打つために外来に来ていただく必要がないためです。

ご自身で注射することに不安がある方は、点滴にしたり、病院の外来でペン製剤・シリンジ製剤を使用することもあります。

費用が高い

古くから使用されていた内服の薬剤に比べると、最近出てきた薬剤で、作成が難しいこともあり、費用が高くなっています。

費用は薬剤によって大きく異なりますが、関節リウマチ治療における薬剤価格の目安を示します。

  • 関節リウマチに対して昔から使用されている薬剤
    • メトトレキサート(リウマトレックス®) 400〜1600円(1ヶ月あたり)
  • 生物学的製剤
    • TNFα阻害薬  50,000〜110,000円(1ヶ月あたり)
    • IL-6阻害薬 65,000〜90,000円(1ヶ月あたり)
    • アバタセプト 110,000円(1ヶ月あたり)
  • JAK阻害薬
    • 105,000〜135,000円(1ヶ月あたり)

これは、薬剤価格の目安であり、実際に患者さんにお支払いいただく値段は、ご自身の健康保険によって異なることにご注意ください。

使用していると効かなくなることがある

生物学的製剤は、普通の薬剤と異なり、蛋白質でできています。

そのため長期に使用していると、蛋白質に対する「抗体」ができてしまい、最初は効果があったのに、徐々に効果がなくなってしまうことがあります。

これを「二次無効」と呼びます。

二次無効が生じやすい薬剤と、そうでないものがありますが、二次無効が起きるかどうかは、使ってみないと分かりません。

ただ、TNFα阻害薬を使用されている方は、メトトレキサートを同時に使用すると、二次無効が生じにくいとはいわれているため、一般的には同時に使うことが多いです。

特殊な副作用が出る場合がある

生物学的製剤はステロイドと比較すると少なく、長期間でも使用しにくいと言うことは利点のところでおはなししました。

ただ、生物学的製剤も薬剤であり、副作用があります。薬特有の副作用も存在しますが、共通のものとしては

  • 感染症 (免疫を抑える薬剤のため)
  • 注射部位反応 (打ったところが腫れる・赤くなる・かゆくなるなど)

基本的には、この副作用はすべての生物学的製剤に共通します。(一部、感染症になりにくいものもある)

それぞれの副作用は、各生物学的製剤のページを参照してください。

また、感染症の注意点、注射器反応が起きたときやその注意点は、各製剤のQ&Aを参照してください。

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