IL-6阻害薬とは(アクテムラ・ケブザラ)

「膠原病」といわれたら

この記事は患者さん向けです。

関節リウマチの治療薬の一つであるIL-6阻害薬(インターロイキン・シックス・そがいやく)について、わかりやすくさまざまな情報をまとめています。日本では、トシリズマブ(アクテムラ®)・サリルマブ(ケブザラ®)の2種類が使用できます。

注射するタイプの薬剤ですが、効果が出るのが速やかで、非常に効果がでる方もいます。ここでは、どのような薬なのか使用上の注意点、副作用、使用している方の疑問にお答えします。

関節リウマチについては、こちらのページを参照ください。

関節リウマチ治療の流れ

関節リウマチに対する治療は、免疫抑制薬を中心に用います。つまり、異常になった免疫を抑え、関節の痛み・腫れを鎮め、破壊を進めないようにすることが目標です。

関節リウマチで最も重要な薬剤である、メトトレキサートを中心として、効果が不充分であれば様々な薬を足したり、変更する、という方針で進めていきます。

  • まずメトトレキサートを使用できる場合には、メトトレキサートを使用する
  • メトトレキサートが使用できない場合には、他の昔からの内服薬を使用する
  • メトトレキサートでよくならない場合は、新しい注射(生物学的製剤)・新しい内服の薬(JAK阻害薬)のいずれかを使用する
  • 新しい薬を使用しても良くならない場合には、違い種類の新しい薬に変更する
  • ステロイドの使用は最小限にする(使用しないほうがよい)

メトトレキサートやほかの内服の治療を初めても、目標が達成できない場合、つまり痛みや腫れ、朝のこわばりが残っている場合、採血や超音波の検査で炎症がいまだ残っている場合、主治医の判断で治療を追加することが必要な場合には、追加の治療を検討することが必要です。

この追加の治療の一つとして、IL-6阻害薬があります。

IL-6阻害薬とは?

IL-6とは、体の免疫機能をやりとりしている「サイトカイン」の一つです。

大まかにいえば、IL-6は「炎症」を引き起こすサイトカインであり、関節リウマチ患者さんにおいては関節炎・関節の破壊などに関係していると考えられています。

よって、IL-6をさまざまな方法で阻害する(数を減らす、伝わらないようにする)ことで、関節リウマチの病気を抑えることができます。

このような「サイトカイン」は、細胞表面にある「受容体」に結合して、細胞の中に情報を伝えます。(手紙で例えると、郵便局の人が直接渡すために家の中に上がってくることはせず、家のポストに入れると思いますが、家のポストが受容体です。)

IL-6阻害薬の特徴

TNFα阻害薬に様々な種類がありますが、すべて注射で、その効果はほぼ同じといわれています。(近年患者さんによって違いがあるというデータも出てきていますが、大きくは変わりません。)

注射の方法は3通りあります。

  • 静脈注射(一般的な点滴に相当する、病院で投与する必要がある、ある程度時間がかかる)
  • 皮下注射(一般的な予防接種に相当する、家で投与できる、1回10秒前後)
    • オートインジェクター:患者さん本人で皮下注射ができる装置。皮膚に当てて押すだけで注射ができる。
    • シリンジ:一般的な注射の形をしている。病院で皮下注射する場合はこちらをつかう。

IL-6阻害薬の場合、大半が皮下注射であり、オートインジェクターを使って患者さん自身に家で投与していただくことが多いです。以下のペンのようなみためをしているものが、オートインジェクターです。

中外製薬 アクテムラ皮下注162mgシリンジ・オートインジェクター

IL-6阻害薬の種類

IL-6阻害薬は、現在日本では2種類が使用できます。

  • トシリズマブ(アクテムラ®)
  • サリルマブ(ケブザラ®)

トシリズマブ(アクテムラ®)

サリルマブ(ケブザラ®)

IL-6阻害薬の利点

メトトレキサートなどの、古くから使われている薬剤に比べて、効果が高いことが多く、かつ効果がでるのが早いと言われています。

  • (古くから使われている薬剤に比べて)効果が出るのが早い
    • 人によっては、投与した翌日から関節の痛みがよくなることもある。
    • 1〜2週間で効果が出ることが多い
  • 効果が強い
    • IL-6阻害薬が使えるようになったことで、関節リウマチの治療は大きく進展したといわれる

ではなぜ最初からIL-6阻害薬をすべての患者さんに使用しないのでしょうか。それは一定数の患者さんはメトトレキサートのみで全く症状がない状態まで改善することができるからです。TNFα阻害薬などの新しい薬は値段が高く、まずはそれらを使わずに治療しようという方針になっています。

しかし、例えば関節リウマチの程度が非常に悪い方や、メトトレキサートを使用できず、古くから使われている薬剤で治療することが難しいと考えられる場合には、早めからTNFα阻害薬などを使用することもあります。最終的には主治医の判断が重要です。

IL-6阻害薬の欠点

効果が強力で、かつ早いIL-6阻害薬ですが、以下のような欠点もあります。

  • 注射でしか使えない
    • 自己注射の場合には冷所(冷蔵庫)で保存が必要など、管理が面倒な場合がある。
    • 手に痛みが強いとうまく打てない場合がある。
  • 値段が高い
  • 免疫を抑える力が強いため、感染症の副作用が多い。
  • 頻度は高くはないが、特殊な副作用が報告されている。

IL-6阻害薬の副作用

IL-6阻害薬には以下の副作用が報告されています。

  • 感染症
  • 注射部位反応
  • コレステロール増加(脂質異常症・高脂血症)
  • 血球減少
  • 憩室穿孔
  • CRPが低下してしまう

以下で詳しく説明します

感染症

IL-6阻害薬は異常な免疫を抑制してくれますが、広い範囲の免疫を抑制するため、本当は抑制したくない、正常な免疫まで抑制してしまいます。

これによって以下のようなことがおこりやすくなります。

  1. 普通は軽症で済む感染症が重症になりやすくなる。
  2. 普通の人がかからない感染症にかかりやすくなる。
  3. 昔に感染して、今はおさえられていた感染症がぶり返しやすくなる。

以下に詳しく説明します。

  • 普通は軽症で済む感染症が重症になりやすくなる。
    • 最も身近な感染症でいえば、インフルエンザや新型コロナウイルスでしょう。
    • 一部では重症化する方はいらっしゃいますが、普通は自然と治る程度の感染症が、命に関わることになるほど悪くなりやすくなります。
  • 普通の人がかからない感染症にかかりやすくなる。
    • たとえば真菌(カビ)による肺炎がこの代表例です。
    • そのなかでも「ニューモシスチス肺炎」が有名で、発症すると非常に重症な肺炎を起こします。
      • 「バクタ®」「ダイフェン®」という薬剤は、このニューモシスチス肺炎の予防のために初報されています。これを飲んでいれば、ニューモシスチス肺炎になることはほぼ防ぐことができます。
  • 昔に感染して、今はおさえられていた感染症がぶり返しやすくなる。
    • 結核・B型肝炎・C型肝炎・帯状疱疹が代表的です。
      • これらの病原体は特殊で、ヒトの体に感染しても、体から完全に排除することができません。完全に排除はできなくとも、通常は体の中で抑えられています。
      • 免疫抑制薬を使用すると、抑えられていたものが出現(再活性化)することがあります。
    • そのため、免疫を使用する前に、採血で感染したことがないかを確認させていただきます。
    • もし感染していた場合、再活性化が起きていないかを、症状や採血で適宜確認することが重要です。
      • 結核については、再燃を防ぐための薬を飲んでいただくこともあります。

 IL-6阻害薬を使用している限りは、免疫が抑えられた状態が続きます。

注射部位反応

注射する薬のため、注射したところが腫れる・赤くなる・かゆくなる・痛くなるなどの症状が出ることがあります。

通常は一時的なもので終わることが多いですが、激しい場合には医師に報告してください。

脂質異常症・高脂血症

脂質異常症のなかでも、中性脂肪(トリグリセリド)の値が高くなることがあることが知られています。それだけで何か症状が出ることはありませんが、長期間放置していると動脈硬化を来たし、心筋梗塞・脳梗塞などを起こす可能性が高くなるため、脂質異常症の薬が始まる場合もあります。

血球減少

「血球」というのは、血液の中の、赤血球・白血球・血小板の3つの成分を指す言葉です。

IL-6阻害薬では、その中の特に血小板・白血球が減少することがあります。

日常生活を送る上で問題になるほど下がることは稀ですが、外来の採血で確認させていただく必要があります。基本的に自覚症状はでませんが、極端に低下すると以下の症状が出ます。

  • 血小板減少 ・・・歯を磨くと出血する、軽く打ったところがアザになる
  • 白血球減少 ・・・ほとんど症状はでない(風邪を引いたときに悪くなるなど)

憩室穿孔・憩室炎

一部の方には、腸に「憩室」という部屋ができることがあります。これ自体は異常ではなく、多くの方にある正常な所見です。

その憩室に炎症が起きてお腹が痛くなったり発熱したりする状態を「憩室炎」といいます。また憩室から出血することを「憩室出血」といいます。

これらの病気になったことがある方は、IL-6阻害薬を使うと、憩室が炎症を起こして破れてしまう「憩室穿孔」を起こしやすい可能性が指摘されています。

「憩室炎」「憩室穿孔」があったかたは、主治医に申しでていただいたほうがよいと思います。

CRPが低下してしまう
  • CRP」は、採血のデータの1つ
  • 正常値はほぼ 0mg/dL(施設によって多少異なるが0.3mg/dLが上限)
  • イメージは「熱が出る」症状があると上昇する
    • 感染症 ・・・インフルエンザ・肺炎・尿路感染症などほぼすべてで上がります。
    • 膠原病 ・・・関節リウマチはもちろん、ほぼすべての膠原病で上がります。全身性エリテマトーデスでは通常上がりません。
    • 悪性腫瘍(がん) ・・・小さいがんでは上がらないこともあります。

IL-6(インターロイキン・シックス)というサイトカイン(免疫のシステムをやりとりする物質)の影響をうけて、肝臓で産生されます。

IL-6阻害薬は、このIL-6(インターロイキン・シックス)を抑えることで、関節リウマチの病気を抑える薬です。ですので、採血のデータ上の、CRPは基本的には0になります。

これのなにが問題かというと、普通の人は風邪を引いたり肺炎になるとCRPが上がるため、採血で「何かが起きている」ということを見つけることができますが、IL-6阻害薬を使用していると、肺炎などがあってもCRPが0のままのため、気がつきにくいことがあります。

したがって、患者さんの症状が非常に重要であるということです。また、膠原病リウマチ内科にとっては常識的な副作用ですが、普通の医師にとっては気がつきにくい副作用でもあります。採血をみて、大丈夫と言われても、ご自身でIL-6阻害薬を使用していますとおっしゃっていただくことが必要な場合もあると思います。

  • CRPが0になるため、採血のデータの信頼性が低下する。
    • 肺炎などを見落としてしまうことがある。
  • 患者さんの症状がより重要になる。
  • 医療者にIL-6阻害薬を使用している、ということを伝えてください。

Q&A

使用開始前の疑問

私に向いている?他に選択肢はない?

どれくらいで効果がある?どれくらいで効果を判断する?

自分でも打てるか不安

注射はどれくらい痛い?

お金はいくらぐらいかかる?

外来でどうやってもらうの?

治療全般に関する疑問

日常生活で気をつけた方がいいことは?

食事で気をつけるべきことは?

いつまで使用するの?

すでに飲んでいるほかの薬と相性は大丈夫?

打つ時間は決めた方がいい?

体調が悪い、熱が出たが注射はしたほうがいい?

ワクチンは打っていい?

妊娠・授乳中でも継続できる?

自己注射キットの使い方の疑問

注射の仕方を知りたい

保存の仕方を知りたい

飛行機に持ち込める?海外旅行のときは?

どこに注射したらいい?

注射器はどこに捨てたらいい?

針が怖い・・・痛みを減らすには

お酒を飲んでも大丈夫?

出血しやすいが打っても大丈夫?

注射した後にお風呂やサウナに入っても大丈夫?

注射器本体の管理の疑問

冷凍してしまった!大丈夫?

室温で放置してしまった!大丈夫?

落としてしまった!強く振ってしまった!

注射器がなくなってしまった

間違えて違うタイミングで使ってしまった、投与し忘れた

ペンが故障してしまった!

注射器を打つときのトラブル

カバーを外したら薬液が漏れた

薬剤が入りきらなかった

斜めに打ってしまった

打った部位が赤い・痛い・かゆい

打った部分は揉まない方がいい?

打ったところが出血してしまった

ほか

内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)が予定されているが大丈夫?

手術を控えているが大丈夫?

【更新情報】2025/08/28 Q&Aを一部修正しました

コメント

タイトルとURLをコピーしました