「ステロイド」を使うといわれた・使っている

「膠原病」の治療がはじまったら

この記事は患者さん向けです。

関節リウマチなどの、膠原病・自己免疫疾患と診断され、ステロイドを使用する、また最近使用し始めた患者さんむけに、ステロイドの効果・副作用・使われ方について説明します。

ステロイドとはなにか

ステロイドとは免疫抑制薬=免疫を抑えるくすりの代表であり、正式には「副腎皮質ステロイド」と呼ばれます。

これは「副腎」という腎臓の上についている臓器でつくられるホルモンです。

グレイ解剖学アトラス原著第2版より

この副腎からは3種類のホルモンが作られるのですが、それらを副腎皮質ステロイドと呼びます。(ステロイドホルモンという種類のため)

そのうちの1つが、膠原病の領域ではグルココルチコイドという薬剤として使用されます。(副腎皮質ステロイドと呼ぶ場合、このグルココルチコイドを指すことが多いです。)

つまり、人間が1から作った薬ではなく、もともとヒトの体の中に存在したホルモンを濃縮した薬剤です。

この記事では「ステロイド」と呼んでいますが、これは医学的に正確には「グルココルチコイド」のことです。

最も一般的なものは、プレドニン®(一般名プレドニゾロン)で、直径5mmほどの小さな錠剤です。

プレドニン錠5mg
塩野義製薬の公式サイトです。医療関係者向けの「プレドニン錠5mg」のページです。
 より

錠剤以外にも、点滴で使用することがあり、特に大量のステロイドを1度に点滴する、ステロイドパルス療法という方法もあります。病気を強力に抑えたい場合に使う、切り札のような存在です。

膠原病でなぜステロイドを使うのか?

膠原病の領域において、ステロイドは間違いなく、最も使用される薬剤です。

ではなぜ、膠原病においてはステロイドが使用されるのでしょうか。それには「膠原病=自己免疫疾患」という病気について知る必要があります。

「免疫」とは、簡単に言えば、ヒトの体を外敵から守る機能のことです。

外敵とはこの場合、細菌・ウイルス・寄生虫などの病原体のことです。免疫が落ちると風邪を引きやすくなったり、普通の風邪でも悪くなることがあります。

免疫が具体的にどのように外敵から体を守っているかをみていきましょう。

  • まずは、細菌・ウイルスなどを、「外敵である」と認識します。
  • その外敵の相手に応じて、武器を使い分けることで、うまく相手を倒します。
  • 相手を倒した後は、さっと免疫システムを撤収します。

インフルエンザになったとき、風邪を引いたときのことを思い出してください。

咳・鼻水・喉の痛みとともに、発熱・全身のだるさが出現したことと思います。これは相手を認識した体が、免疫細胞や抗体を動員してウイルスと戦っている証拠なのです。

免疫が速やかに撤収されなければ、いつまでも発熱やだるさが続き、体が疲弊してしまいます。従って、速やかに免疫を動員することと同じぐらい、撤収することは重要なのです。

膠原病とは、この免疫のターゲットが自分自身に向くことによって発症します。

最初のきっかけは依然としてよくわかっていませんが、1度自分自身に対する免疫が成立してしまうと、感染症と違う点がいくつかあり、

  • 自分自身を攻撃することで、それによってさらに免疫が活性化する悪循環に陥る
  • 自分自身を排除することはできないので免疫が治まることがない

 

この悪循環の連鎖を断ち切るためには、強力な免疫を抑える作用を持った薬剤=免疫抑制薬が必要なのです。その代表がステロイドです。

ステロイドの利点

膠原病リウマチ内科の領域においては、ステロイド(グルココルチコイド)という薬剤は非常によく使われます。

それはステロイドという薬剤が、大きな副作用を持ちながらもそれを補ってあまりある強力な利点を持っているからです。

  • 効果が強い・広い・早い
    • 膠原病で使用される薬剤のなかでは強力、かつ極めて広い範囲の免疫を抑える作用を持ちます。
    • かつ作用が極めて早く、病気によっては朝内服してその日のうちに効果がでます。このような速やかな作用を持つ免疫抑制薬はほかにありません。
  • 歴史がある
    • 最も歴史のある免疫抑制薬の一つで、効果があるという経験が蓄積されています。
  • 内服・点滴どちらもある
    • 基本的には内服ですが、点滴で投与することもできます。
  • 安い
    • 非常に高価な免疫抑制薬が多い中で、1錠が5円程度です。

ステロイドの欠点

ステロイドが副作用の全くない薬なら、膠原病リウマチ内科の仕事はほとんどありません。ステロイドを内服しているだけで病気がよくなるからです。

しかし残念ながら、ステロイドはその強力な効果と引き換えに、多くの副作用をもっています。

その副作用は大きく以下の5つに分けられます。

  • 感染症
  • 生活習慣病(成人病)
  • 体がもろくなる
  • 精神系
  • ほか

それぞれ以下に詳しく述べていきます。

感染症

ステロイドは異常な免疫を抑制してくれますが、非常に広い範囲の免疫を抑制するため、本当は抑制したくない、正常な免疫まで抑制してしまいます。

これによって以下のようなことがおこりやすくなります。

  1. 普通は軽症で済む感染症が重症になりやすくなる。
  2. 普通の人がかからない感染症にかかりやすくなる。
  3. 昔に感染して、今はおさえられていた感染症がぶり返しやすくなる。

以下に詳しく説明します。

  • 普通は軽症で済む感染症が重症になりやすくなる。
    • 最も身近な感染症でいえば、インフルエンザや新型コロナウイルスでしょう。
    • 一部では重症化する方はいらっしゃいますが、普通は治るものが、命に関わることになることもあります。
  • 普通の人がかからない感染症にかかりやすくなる。
    • たとえば真菌(カビ)による肺炎がこの代表例です。
    • そのなかでも「ニューモシスチス肺炎」が有名で、発症すると非常に重症な肺炎を起こします。
  • 昔に感染して、今はおさえられていた感染症がぶり返しやすくなる。
    • 結核・B型肝炎・C型肝炎が代表的です。
    • これらの病原体は特殊で、ヒトの体に感染しても、体から完全に排除することができません。完全に排除はできなくとも、通常は体の中で抑えられています。
    • ステロイドなどの免疫抑制薬を投与すると、抑えられていたものが出現(再活性化)することがあります。

ステロイドを減らしていけば、免疫もそれに伴って正常化していきますが、逆に異常な免疫も活性化してしまう(再燃)する可能性があります。

生活習慣病(成人病)

生活習慣病とは以下を包括した概念ですが、これらがすべて生じやすくなります。

  • 糖尿病
  • 高血圧
  • 脂質異常症

後述しますが、ステロイドには食欲を増やす作用もあり、これと合わさって生活習慣病も悪くなります。

人によってはインスリンを必要とするほどの糖尿病となる場合もあります。ステロイドを減らしていけば、これらの症状は改善していくことが多いです。

体が「もろく」なる

体の様々な部位が「もろく」なっていきます。具体的には

  • がもろくなる ・・・骨粗鬆症
  • 胃腸がもろくなる ・・・胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 筋肉がもろくなる ・・・筋力低下(ステロイドミオパチー)
  • 皮膚がもろくなる ・・・アザができやすくなる

ステロイドを減らしていけば、もろくなる程度はある程度抑えられますが、特に骨粗鬆症などは少量でも進行することが近年分かっています。

精神症状

非常に大雑把に書きましたが、様々な精神症状を起こします。

  • 不眠 ・・・最も多く、ステロイド投与の初日から生じうる
  • 躁症状 ・・・例えば高額な買い物をするなど。特に多い量を使っている際に多いとされます。
  • うつ症状 ・・・特に少ない量で長く使っている際に多いとされます。
  • せん妄 ・・・一時的に、注意が散漫となり、自分の置かれている状況が把握できなくなる症状のことです。

量を減らしていけば、出現しにくいとされています。

ほか

若年の方に特に問題になるのは整容的な問題です。

  • 顔に脂肪がつく (ムーンフェイス)
  • 肩に脂肪がつく (バッファローハンプ)
  • 毛が濃くなる (多毛)
  • にきびができやすくなる (ざ瘡)

ステロイドを減らしていけば、多毛やざ瘡は減り、顔や肩の脂肪は消失していくことが多いですが、時間がかかることも多いです。

他には、主に長期に使用した場合、以下の副作用が出現することがありますが、予防策は基本的にありません。

  • 白内障・緑内障 ・・・白内障手術をされている方は心配ありません。
  • 大腿骨頭壊死 ・・・稀ですが、生じた場合には手術が必要になります。
  • 心不全 ・・・もともと心臓に持病がある方は注意する必要があります。

他にも稀な副作用はありますが、主な副作用は以上です。

ステロイドの使い方・注意点

こんなにも副作用がある薬剤を使うなんて何事か!とお思いになられる方もいらっしゃるでしょう。しかし、それは我々医師もおなじ考えです。使わずに治るなら、使わないに越したことはありません。

ただ、残念ながら現在の医学では、少なくとも膠原病の治療初期には、ステロイドを使わざるを得ない場面が大半です。ステロイドの副作用を恐れて、充分に使用せず、元の病気で亡くなったり、重大な障害が残ってしまうことは避けなくてはいけません。

使用することのメリット、デメリットを患者さんにも把握いただき、納得した上で使用していくことが一番のよい使い方と言えます。

ステロイドの使い方

ステロイドの使用量・内服方法は、膠原病や患者さんそれぞれによって全く異なりますので、ひとことでまとめることはできませんが、大まかな方針は共通していますので、簡単に説明します。

  • 当初はしっかり免疫抑制をかける(場合によってはステロイドパルスという点滴)
  • 病気が安定したらステロイドを速やかに減らす (一定の期間ごとに内服量を減らしていく)
  • その過程で他の免疫抑制薬を併用することが多い (場合によっては複数種類、注射製剤も使われる)

 ただし、これは病気・施設によって全く異なりますので、あくまで考え方の基本として参考程度と思っていただければと思います。

ステロイド使用中の注意点

それは、絶対に薬を中断してはいけない、ということです。

最初に申し上げたように、ステロイドは、本来は自分の体から出ているホルモンです。ステロイドの内服をしばらくしていると、ホルモンを作らなくても勝手に補充される状態になるため、自分の体でホルモンを作ることを休憩してしまいます。

(完全にホルモンを作ることをやめるわけではないので、徐々にやめれば大きな問題にならないことが多いです。先ほどの図で、階段状に減らしていたのはこのためもあります)

ここで急にステロイドをやめてしまうと、体にとって必要不可欠なホルモンがなくなってしまい、時に命に関わる事態になりかねません。(副腎不全症といいます)

よってステロイドは体調が悪くても、食事が食べられなくても、必ず飲み続ける必要があります。逆に、気持ちが悪いなどの症状で薬が飲めない場合には、点滴に切り替えての補充が必要になるため、必ずかかりつけに相談し、場合によっては直ちに病院受診をしてください。

以上、ステロイドについて簡単ではありますがまとめてみました。個別の質問等ありましたらいつでもお待ちしております。

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