「ステロイド」のすべて(患者さん向け)

「膠原病」の治療がはじまったら

ステロイド(副腎皮質ステロイド・グルココルチコイド)は、関節リウマチなどの膠原病・気管支喘息・皮膚の塗り薬など、非常に様々な領域で使われています。

このページではステロイドを使用する、また使用している患者さん向けに、ステロイドの効果・副作用・使われ方について説明します。

ステロイドの基本情報

ステロイドとは何か

  • 正式名称は、副腎皮質ステロイド
  • 「副腎」で作られる(ステロイドという種類の)ホルモンを濃縮した薬。
  • 免疫を抑える力、炎症を抑える力 を期待して使用する。

ステロイドとは、正式には「副腎皮質ステロイド」と呼ばれる、副腎で作られるホルモン抽出した薬剤です。

副腎」とは、腎臓の上についている臓器で、様々なホルモンを作っています。

グレイ解剖学アトラス原著第2版より

この副腎からは3種類のホルモンが作られるのですが、それらを副腎皮質ステロイドと呼びます。

つまり、人間が1から作った薬ではなく、もともとヒトの体の中に存在したホルモンを濃縮した薬剤なのです。

ホルモンは、副腎皮質ステロイド以外にも様々な種類があり、「ステロイドホルモン」というグループがあります。副腎皮質から作られるホルモンはすべて、ステロイドホルモンに分類されるため、副腎皮質ステロイドと呼ばれています。

副腎皮質ステロイドには強力な免疫炎症を抑える力があり、薬剤としてはこの力を期待して使います。

免疫とは何かについては、こちらのページを参照してください

なぜステロイドを使うのか

  • 免疫を抑える力、炎症を抑える力 を期待して使用することが多い。
  • 膠原病 ・・・関節リウマチ・全身性エリテマトーデス など
  • アレルギー ・・・気管支喘息・COPD(慢性閉塞性肺疾患)など
  • 皮膚 ・・・湿疹・接触性皮膚炎 など
  • 神経・血液内科の病気 
  • ホルモン自体の補充 ・・・アジソン病・副腎不全症 など

ステロイド(正式には副腎皮質ステロイド)には、強力に免疫を抑える、炎症を抑える作用があり、主にこれを目的に使います。

つまり、異常な免疫・炎症が病気の原因となっている病気に対して使うことが一般的です。

そのような病気の代表が、膠原病・アレルギーです。

 膠原病について、詳しく知りたい方はこちらのページを参照してください

神経の病気でも、免疫の異常による場合があり、その際もステロイドを使用します。

血液の病気さまざまな癌においても時に使用されることがあります。

副腎皮質ステロイドホルモンが体内から分泌されない病気の方では、これを補充する目的で使用することもあります。

ステロイドにはどのようなものがあるか

ステロイドには非常に多くの種類があり、内服・注射・塗り薬などいろいろな使用方法があります。

以下に例を示します(括弧の中は商品名)

  • 内服
    • プレドニゾロン(プレドニン®)
    • メチルプレドニゾロン(メドロール®)
    • デキサメタゾン(デカドロン®)
    • リンデロン(ベタメタゾン®)
    • ヒドロコルチゾン(コートリル®)
  • 点滴・注射
    • ソル・メドロール®
    • ソル・コーテフ®
    • デカドロン®
    • リンデロン®
    • ケナコルト-A®(トリアムシノロンアセトニド)
  • 塗り薬
    • クロベタゾールプロピオン酸エステル(デルモベート®)
    • ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(リンデロンDP®)
    • ベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル(アンテベート®)
    • モメタゾンフランカルボン酸エステル(フルメタ®)
    • ジフルコルトロン吉草酸エステル(マイザー®)
    • ベタメタゾン吉草酸エステル(リンデロンV/VG®)
    • ジフルプレドナート(リドメックス®)
    • フルオシノロンアセトニド(フルコート/F®)
    • ヒドロコルチゾン酪酸エステル(ロコイド®)
    • アルクロメタゾンプロピオン酸エステル(アルメタ/キンダベート®)
  • 吸入薬
    • フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド®)
    • フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アニュイティ® エリプタ)
    • ブデソニド(パルミコート®:タービュヘイラー/吸入懸濁液)
    • ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(キュバール®)
    • シクレソニド(オルベスコ®)
    • モメタゾンフランカルボン酸エステル(アズマネックス®)
    • フルチカゾンプロピオン酸エステル/サルメテロール(アドエア®)
    • ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート®)
    • フルチカゾンプロピオン酸エステル/ホルモテロール(フルティフォーム®)
    • ベクロメタゾンプロピオン酸エステル/ホルモテロール(フォスター®)
    • フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ビランテロール(レルベア® エリプタ)
    • フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム/ビランテロール(テリルジー® エリプタ)

ステロイドの特徴の一つに、内服・注射(点滴・皮下注射・筋肉内注射)・塗り薬・吸入薬など、様々な方法で使用できるという点があります。

ステロイドは、異常な免疫を抑えるために使用しますが、その異常な免疫の場所に応じて使用方法を変えることができます。

例えば、体全体で異常が起きる場合に(膠原病など)は内服で、皮膚だけの場合は塗り薬でなどのように。

ステロイドは副作用の多い薬ですから、このようにしてできるだけ体への影響を少なくすることが重要です。

なお、膠原病の場合は、内服で使用することが大半です。

内服のステロイドで最も一般的なものは、プレドニン®(一般名プレドニゾロン)で、直径5mmほどの小さな錠剤です。1錠10円程度と、価格も非常に安いです。

https://med.shionogi.co.jp/products/medicine/predonine-tablets.html より

グルココルチコイドはステロイドと同じ?

基本的には同じものを指すと考えてよいです。

細かい話になりますが、ステロイドとは、正式には「副腎皮質ステロイド」と呼ばれる、副腎で作られるホルモン抽出した薬剤です。

副腎皮質で作られるホルモンには3種類あり、そのうちの1種類の効果を期待して副腎皮質ステロイドを使用することが多いです。

その1種類のホルモンの名前が、「グルココルチコイド」であり、「副腎皮質ステロイド」と同じ意味で使われることが多いです。

医学的に正確にいえば、副腎皮質ステロイドのなかに、グルココルチコイドが存在することになります。

ステロイドの利点

効果が強い・広い・早い

  • 効果が強い ・・・異常な免疫を強く抑えることが可能
  • 効果が広い ・・・様々な病気に広く使用することができる
  • 効果が早い ・・・人によっては飲んだその日に効果が現れる

免疫を抑える薬剤のなかで非常に強力、かつ広い範囲の免疫を抑え効果が早いという利点があります。

効果が強い

免疫を抑える作用が非常に強く、異常な免疫を強力に抑えることができます。

その反面、本来維持されて欲しい正常な免疫まで抑えてしまいます。

効果が広い

免疫とは非常に複雑なシステムで、様々な経路がありますが、それらを1度に抑えることができます。したがって、様々な病気に幅広く効果を発揮することができるのです。

その反面、本来維持されて欲しい正常な免疫まで抑えてしまいます。

効果が早い

免疫を抑える薬は様々にありますが、どれも週〜月単位で効果が現れることが多い中、ステロイドは時間〜日の単位で効果が現れます。

急激に免疫異常が進んでいる病気の場合には、効果の早い薬を使う必要があり、そのような病気ではステロイドは必須の薬です。

歴史がある薬剤

最も歴史のある免疫抑制薬の一つで、経験が蓄積されています。

新しい薬の方が、なんとなく効果があってよい薬のようなイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

新しい薬は、予期せぬ副作用や、効果が想定されているほど充分ではなかったりと、様々な問題を抱えている可能性があります。

その点、ステロイドは経験上、様々な病気に対して確かな効果があることが分かっているため、効果について信頼の置ける薬ということができます。

さまざまな使用方法がある

  • 内服  ・・・全身に対して効果を出したい
  • 点滴・注射 ・・・内服ができないとき、関節の中だけに使いたい
  • 塗り薬  ・・・皮膚だけに効果を出したい 
  • 吸入薬  ・・・気管支だけに効果を出したい

ステロイドには非常に多くの種類があり、内服・注射・塗り薬などいろいろな使用方法があります。

ステロイドは、異常な免疫を抑えるために使用しますが、その異常な免疫の場所に応じて使用方法を変えることができます。

ステロイドは副作用が多い薬のため、使う量は最小限にしたいのですが、効果を発揮したい場所にターゲットして使用することができます。

内服しかできないタイプの薬剤もたくさんあり、その場合は調子が悪くなって内服できなくなると、実質薬が使えなくなってしまいます。その点ステロイドは点滴でも使用できるので、内服できなくなっても投与できなくなるということはありません。

値段が安い

免疫を抑える薬は様々にありますが、特に最近出た薬剤は、非常に高価なものが多いです(数万〜数百万するものも)

ただステロイドは、歴史があることもあり値段が安いです。

例えば内服で最もよく使われるプレドニゾロン(プレドニン®)は1錠 10円程度です。

塗り薬や吸入の薬はそれよりはある程度高いですが、それはステロイド以外の成分のためです。

プレドニゾロン(プレドニン®)

https://med.shionogi.co.jp/products/medicine/predonine-tablets.html より

ステロイドの欠点・副作用

残念ながら、ステロイドはその強力な効果と引き換えに、多くの副作用があります。

ただ、ステロイドを使うとすべての人に副作用が出るわけではありません

ステロイドによる副作用がでやすい人、注意する必要がある人は、以下のような方です。

  • ステロイドを内服・点滴で使用した場合
    • 塗り薬や吸入薬では副作用は起こりにくいといわれています
  • ステロイドの使う量が多い
    • 副作用によって起きやすい量が違います。
    • 目安としては10mg以上使用すると様々な副作用が出現しやすいです。
  • ステロイドの使う期間が長い
    • 副作用によって起きやすい期間が違います。
    • 不眠などは投与したその日から、免疫を抑える作用は2週間以上かかります。
  • もともと副作用と同じ症状をお持ちの方
    • 肺などに感染しやすい状態がある(間質性肺炎・喫煙など)
    • もともと生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症)がある
    • もともと骨粗鬆症がある
    • もともと不眠がある

副作用は以下の5つに大きく分けられます。

  • 感染症
  • 生活習慣病(成人病)
  • 体がもろくなる
  • 精神系
  • ほか

それぞれ以下に詳しく述べていきます。

感染症

ステロイドは異常な免疫を抑制してくれますが、広い範囲の免疫を強く抑制するため、本当は抑制したくない、正常な免疫まで抑制してしまいます。

基本的には、内服で使用する場合に免疫が大きく落ち、塗り薬・吸入薬では大きく免疫が落ちることは少ないです。

これはある程度やむを得ないことですが、以下のような副作用が出現します。

① 普通は軽症で済む感染症が重症になりやすくなる

例えば身近な感染症である、インフルエンザや新型コロナウイルスや、ただの風邪であっても、普通は自然と治ることの多い感染症が、命に関わることになるほど悪くなることがあります。

② 普通の人がかからない感染症にかかりやすくなる

  • 真菌による肺炎(ニューモシスチス肺炎・アスペルギルス肺炎・クリプトコッカス肺炎など)
  • 真菌による全身の感染(カンジダ・クリプトコッカスなど)
  • ウイルスによる全身の感染(サイトメガロウイルス・JCウイルスなど)

たとえば真菌(カビ)による肺炎がこの代表例です。

そのなかでもニューモシスチス肺炎が有名で、発症すると非常に重症な肺炎を起こします。

バクタ®」「ダイフェン®」という薬剤は、このニューモシスチス肺炎の予防のために使用されます。これを飲んでいれば、ニューモシスチス肺炎になることはほぼ防ぐことができるため、ステロイドを多く使用する方には、内服していただきます。

③ 以前に感染して、今はおさえられていた感染症がぶり返しやすくなる

  • 以下の感染症は感染しても体に残り続けます
    • 結核
    • B型肝炎C型肝炎
  • そのためステロイドを内服・点滴である程度の量を使う方は採血で確認が必要です
  • 感染したことがある方は
    • 結核の場合には、抑える薬(イソニアジド・イスコチン®)を使います
    • B型肝炎は採血で定期的に再活性化していないかを確認します。
    • 再活性化した場合には、薬剤で治療します。

ぶり返す可能性のある感染症として、結核・B型肝炎・C型肝炎が代表的です。

これらの病原体は特殊で、ヒトの体に感染しても、体から完全に排除することができません

通常は、完全に排除はできなくとも、通常は体の中で免疫が働き、常に感染症を抑え込んでいます。そのため、仮に感染したことがあっても、普通は大きな問題になることはありません。

しかし、免疫抑制薬を使用すると、病原体を押さえ込んでいた免疫が弱められてしまい、抑えられていたものが出現(再活性化)することがあります。

感染したことを調べる方法としては、採血で感染したことがあるかどうかが分かります(抗体を調べる)。

そのため、ステロイドを内服・点滴である程度の量を使用する予定の前には、必ず採血が必要です。

B型肝炎については、ステロイドの薬を使っている間に、2−3ヶ月ごとに採血し、「再活性化」が起きていないことを確認する必要があります。

もし再活性化が起きてしまったら、内服の薬で治療を行う必要があります。

感染症にならないためには

  • 内服するステロイドをある程度の量・期間使用する場合は、日常生活での予防が必要なこともある
  • マスク・手洗い・うがい
  • 人混みには行かないようにする
  • 目安として、プレドニゾロン(プレドニン®)が10mg程度(1日あたり)になればある程度は許容される
    • ただ長期に使用する場合では、10mgでも免疫が抑えられる

ステロイドの内服をある程度の量・期間で使う場合には、日常生活において、感染症にならないための工夫をお願いすることがあります。

といっても特別なことは必要なく、一般的に感染症への対策を行うことです。

つまり、マスクを着用する、手洗い・うがいを行う、などです。

マスクは確かにすべての菌・ウイルスを防げるわけではありません、その量を大幅に減らすことはできます。これによって感染症を減らすことが可能です。

また、人混みにはできるだけ行かないようにすることをお願いしています。

これは、人混みでは他の人から感染症を移される可能性があるばかりではなく、人混みに行くとホコリが舞っていることが多いためです。ホコリの中には眼に見えないカビ(真菌)が含まれています。普通の人はこれを吸い込んでも免疫によって守られますが、免疫が抑えられていると、真菌の感染症になってしまうことがあります。(ニューモシスチス肺炎など)

どの程度、このような生活を続ける必要があるかは、はっきりとしたデータはありませんが、プレドニゾロン(プレドニン®)10mg(1日あたり)まで減らしていけば、ある程度は大丈夫だろうと言われています。

ただあくまで目安であり、ステロイドを使用している病気や、元々の体の状態、年齢、ステロイドを使用する期間等によって対応は異なるので、詳しくは主治医に聞いてみましょう。

生活習慣病(成人病)

生活習慣病とは以下を包括した概念ですが、これらがすべて生じやすくなります。

糖尿病

  • 内服・点滴で使用した場合に起こりやすいです(吸入・塗り薬では起こらない)
    • 基本的には使う量・期間が多いほど起こりやすいです
  • もともと糖尿病がある人は悪くなることが多いです
  • もともと糖尿病がなくても、血糖を下げる薬が必要になることがあります
  • 人によってはインスリンが必要になるほど悪くなることもあります
  • 長期間使っても糖尿病にならない人もいます
  • 内服する薬以上に、食生活が重要です

高血圧

  • 内服・点滴で使用した場合に起こりやすいです(吸入・塗り薬では起こらない)
    • 基本的には使う量・期間が多いほど起こりやすいです
  • もともと高血圧がある人は悪くなることが多いです
  • もともと高血圧がなくても、血圧を下げる薬が必要になることがあります
  • 長期間使っても高血圧にならない人もいます
  • 内服する薬以上に、食生活が重要です

脂質異常症(高脂血症)

  • 内服・点滴で使用した場合に起こりやすいです(吸入・塗り薬では起こらない)
    • 基本的には使う量・期間が多いほど起こりやすいです
  • もともと脂質異常症がある人は悪くなることが多いです
  • もともと脂質異常症がなくても、脂質を下げる薬が必要になることがあります
  • 長期間使っても脂質異常症にならない人もいます
  • 内服する薬以上に、食生活が重要です

体が「もろく」なる

体の様々な部位が「もろく」なっていきます。具体的には

がもろくなる ・・・骨粗鬆症

胃腸がもろくなる ・・・胃潰瘍・十二指腸潰瘍

筋肉がもろくなる ・・・筋力低下(ステロイドミオパチー)

皮膚がもろくなる ・・・アザができやすくなる

精神症状

不眠症

うつ症状・躁症状

ほか

見た目の変化

白内障・緑内障

大腿骨頭壊死

ステロイド治療の流れ・注意点

残念ながら現在の医学では、少なくとも膠原病の治療初期には、ステロイドを使わざるを得ない場面が大半です。ステロイドの副作用を恐れて、充分に使用せず、元の病気で亡くなったり、重大な障害が残ってしまうことは避けなくてはいけません。

使用することのメリット、デメリットを患者さんにも把握いただき、納得した上で使用していくことが一番のよい使い方と言えます。

膠原病におけるステロイドを使った治療の流れ

ステロイドについて、必ず守っていただきたいこと

ステロイドQ&A

使用する前の疑問

そもそもステロイドは何のために使うの?

通院の頻度は?

通院の時にする検査は?

内服に対する疑問

どのくらいの期間飲むの?

最終的には飲まなくてもよくなる?

朝に飲むのはなぜ?

他の薬を飲んでも大丈夫?他の薬との飲み合わせは?

内服中の生活での疑問

食事はどのように気をつけたらいい?

お酒は飲んでいい?

タバコは吸っていい?

運動はなにを、どれくらいしたらいい?

ワクチンを打っても大丈夫?

海外に行っても大丈夫?

抜歯・手術しても大丈夫?

トラブルが起きたら

飲み忘れてしまった

風邪を引いた、熱が出た、体調が悪い

薬がなくなった、飲めなくなった

これって副作用?

胃のむかつき・痛みがある

アザがでる

2025/08/25 「感染症」を一部追記しました

2025/09/24 内容を大きく改訂しました。

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