JAK阻害薬の安全性をTNFα阻害薬と比較したメタアナリシス(JAMA network open vol. 8,9 e2531204. 2 Sep. 2025)

膠原病エビデンス集

Comparative Safety of JAK Inhibitors vs TNF Antagonists in Immune-Mediated Inflammatory Diseases: A Systematic Review and Meta-Analysis

JAMA network open vol. 8,9 e2531204. 2 Sep. 2025

  • この論文の背景
    • JAK阻害薬は関節リウマチ(RA)に対してTNFα阻害薬と同等かそれ以上の効果が期待されている。
    • トファシチニブ(TOF)のランダム化比較試験(RCT)であるORAL surveillance trialにおいて、TOFは、TNFα阻害薬と比較して、悪性腫瘍・腫瘍心血管イベント(MACEs)・深部静脈血栓(VTE)を増加させる可能性が示唆された。
    • リアルワールドのデータを収集して、JAK阻害薬のTNFα阻害薬に対する安全性(悪性腫瘍・MACEs・VTE)を評価した

方法
  • Head to headで、JAK阻害薬とTNFα阻害薬を比較している論文RA・IBD・PsA・SpA)を集めたMeta analysis。(RCT・非比較観察研究・本研究で必要とするOutcomeが含まれていないもの、サンプルサイズが500以下のものは除外)
    • 実臨床ベースでのAEを評価したいので、RCTは除外されている。
  • Random Effect Meta-Analysisを実施し、感染症・悪性腫瘍(NMSCを除く)・MACE・VTEのOutcomeを収集した。

  • 注釈
    • Random effect・・・ 研究間の真の効果量が異なることを前提としたメタアナリシス手法。
    • NMSC・・・ 非メラノーマ皮膚癌。有病率が非常に高いが、転移や生命予後には関係しないため、除外しないと本当に知りたい悪性腫瘍の増加を評価できないため、通常悪性腫瘍の有病率を評価する場合は除外される。また日本人には少ない。
    • MACE・・・myocardial infarction, stroke, or cardiovascular mortalityのこと
      • 心筋梗塞・脳卒中・心血管死亡の合計
    • VTE・・・pulmonary embolism or deep venous thrombosis
      • 肺塞栓症・深部静脈血栓症のこと
結果
  • 42研究が含まれ、813,881例の患者(JAK阻害薬で治療された128,705例とTNF拮抗薬で治療された685,176例)が含まれた。複数の研究に複数のデータベースが含まれ、それぞれが別個の母集団を表していた。したがって、解析は研究レベルではなくコホートレベルで実施された。
    • 研究の内訳
      • 83.3%(35研究)が後向きコホート研究
      • 16.7%(7研究)が前向きコホート研究
      • 52.4%(22研究)がプロペンシティスコア法を使用
      • 35.7%(15研究)がCox比例ハザード回帰モデルを適用
    • 追跡期間の中央値は、JAK阻害薬で治療された患者で23か月(IQR、16-35か月)、TNF拮抗薬で治療された患者で22か月(IQR、14-34か月)
  • 重症感染症
    • 患者相
      • 大半はRA
      • JAKはTOF>>BAR>UPA
    • 結果
      • JAK阻害薬で100人年当たり3.79(95% CI、2.85-5.05)対TNF拮抗薬で100人年当たり3.03(95% CI、2.32-3.95)で、有意差はなかった。統合HR、1.05 [95% CI、0.97-1.13]
      • 地理的位置、IMID種類、JAK阻害薬種類で層別化したサブグループ解析で全体的な知見は変化しなかった。メタ回帰では、男性の割合が高いことと併用免疫調節薬使用の割合が高いことが、JAK阻害薬 対 TNF拮抗薬で重篤感染症のリスク増加と関連していた。
        • 平均年齢、併用コルチコステロイド使用、主要併存疾患の有病率(例:糖尿病、高血圧、脂質異常症、既往心血管疾患、または肥満)、既往感染症、および喫煙は結果に影響しなかった。
  • 悪性腫瘍
    • 結果
      • 悪性腫瘍のIRは、JAK阻害薬で100人年当たり1.00(95% CI、0.77-1.31)対TNF拮抗薬で100人年当たり0.94(95% CI、0.72-1.22)であった。JAK阻害薬対TNF拮抗薬間で悪性腫瘍のリスクに有意な差はなく(統合HR、1.02 [95% CI、0.90-1.16])、低い異質性(I² = 6.0%)であった
      • 地理的位置、IMID種類、JAK阻害薬種類、年齢群、悪性腫瘍種類(固形臓器対血液学的)に基づくサブグループ解析および交絡因子の調整がない研究を除外した感度解析で全体的な知見は安定していた。
      • メタ回帰では、平均年齢、性別分布、研究募集の中間点、併用メトトレキサートまたはコルチコステロイド使用(またはその両方)、主要併存疾患の有病率(例:糖尿病、高血圧、脂質異常症、既往心血管疾患、または肥満)、および喫煙は関連性を変えなかった。

  • MACEs
    • MACEsのIRは、JAK阻害薬で100人年当たり0.72(95% CI、0.56-0.92)対TNF拮抗薬で100人年当たり0.66(95% CI、0.49-0.89)であった。JAK阻害薬対TNF拮抗薬間でMACEsのリスクに有意な差はなく(統合HR、0.91 [95% CI、0.80-1.04])、中等度の異質性(I² = 48.8%)であった。地理的位置、IMID種類、年齢群、MACE種類に基づくサブグループ解析および交絡因子の調整がない研究を除外した感度解析で結果に変化はなかった。
      • JAK阻害薬種類別のサブグループ解析では、TNF拮抗薬と比較してウパダシチニブでMACEsのリスク増加の大きさが低かった(HR、0.48 [95% CI、0.37-0.62];サブグループ差のP < .001)。
  • VTE
    • VTEのIRは、JAK阻害薬で100人年当たり0.57(95% CI、0.40-0.82)対TNF拮抗薬で100人年当たり0.52(95% CI、0.37-0.73)であった。TNF拮抗薬と比較してJAK阻害薬で有意に高いVTEリスクがあった(統合HR、1.26 [95% CI、1.03-1.54])、中等度の異質性(I² = 29.8%)であった。
    • 地理的位置、年齢群、VTE種類に基づくサブグループ解析で全体的な知見は安定していた。
      • RA 対 IBDを比較したリスクの大きさに有意な差があった(サブグループ間の差のP = .03)。
        • RA患者では、JAK阻害薬はTNF拮抗薬と比較して31.0%高いVTEリスクと関連していた(HR、1.31 [95% CI、1.07-1.60])
        • JAK阻害薬の種類でSubgroup analysisを行うと、BAR vs TNFa (HR, 1.53 [95% CI, 0.99-2.37]), TOF vs TNFa (n = 10 cohorts; HR, 1.08 [95% CI, 0.84-1.38]) , UPA vs TNFa (n = 1 cohort; HR, 0.64 [95% CI, 0.20-2.08]) (P = .03)
        • 対照的に、IBD患者では、VTEリスクに有意な差はなかった(HR、0.70 [95% CI、0.05-10.49])。
  • 考察
    • 本論文からの知見は、TNF拮抗薬と比較したJAK阻害薬の安全性を支持している。心血管リスク因子を有する高齢RA患者に制限され、低用量および高用量のトファシチニブで治療されたORAL Surveillance試験とは対照的に、今回の報告は年齢群、異なるIMIDs、および異なる種類のJAK阻害薬にわたってより一般化可能である。
    • ORAL surveillance trialと結果が異なる理由
      • Inclusion criteriaの違い =今回はRAに限らない原疾患、高齢者に限らないの年齢群、すべてのJAK阻害薬で治療された患者を含め、心血管イベントのリスクが増加した患者に解析を制限しなかった
      • JAK阻害薬の臨床使用が進化し、JAK阻害薬を処方される患者の慎重な選択により、MACEsとVTEのより高いリスクを有する患者での使用を回避した可能性がある
      • ORAL Surveillance試験がTNF拮抗薬およびJAK阻害薬治療未経験患者に制限されていたのに対し、今回はそういった治療の曝露に制限を課さなかった
        • TNFα→UPAの方が効果がいい? Ann Rheum Dis. 2019;78(11):1454-1462.
      • 今回の大部分の患者はより低用量のトファシチニブで治療されたが、ORAL Surveillance試験では高用量のトファシチニブがMACEsとVTEのより高いリスクと関連していた。
      • 第四に、ORAL Surveillance試験では転帰が慎重に判定されたが、われわれは転帰確認のために管理請求コードまたはレジストリ研究の医療記録レビューに依存した
      • 最後に、ORAL Surveillance試験では追跡期間がより長く、このメタ解析に含まれた研究の14から35か月と比較して、中央値約4年の追跡であった。
    • Limitation
      • RCTは含まれていない。
      • プロペンシティスコアマッチングを行ってはいるが、Biasを排除できない可能性はある。
      • 中等度の異質性がいずれの項目でもあった
      • 追跡期間の中央値は2年程度で、特に悪性腫瘍発生は評価として不充分である可能性がある

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