これは医療者向けの記事です。
一般内科でも、外科でも、膠原病で免疫抑制薬を使用している患者さんが入院することがあります。その際に、使用している薬剤をどうするか、悩むことも多いかと思います。
極論はケースバイケースとしかいいようがありませんが、膠原病リウマチ内科がどのように免疫抑制療薬の中止・継続を考えているかを共有させていただきます。
ここでは、膠原病リウマチ内科医が不在の週末の入院や、また膠原病リウマチ内科のない病因への入院など、入院したあとの数日間の対応をどうするか、という観点で記載しています。
結論・まとめ
各論や理由は後述しますが、まずはまとめです。
大雑把に言ってしまえば、ステロイドは継続、それ以外は中止、これにつきます。
- A・・・ 薬剤を継続する
- B・・・ 薬剤を中止する
- C・・・ どちらでもよい
- ステロイド(プレドニン®、メドロール®、デカドロン®) ・・・A
- メトトレキサート(MTX・リウマトレックス®) ・・・B
- タクロリムス(Tac・プログラフ®) ・・・B
- シクロスポリン(CyA・Cys・ネオーラル®) ・・・B
- レフルノミド(LEF・アラバ®) ・・・B
- TNFα阻害薬 ・・・B
- インフリキシマブ(IFX・レミケード®)
- エタネルセプト(ETN・エンブレル®)
- アダリムマブ(ADA・ヒュミラ®)
- ゴリムマブ(GLM・シンポニー®)
- セルトリズマブ ペゴル(CZP・シムジア®)
- オゾラリズマブ(OZL・ナノゾラ®)
- IL-6阻害薬 ・・・B
- トシリズマブ(TCZ・アクテムラ®)・・・CRP低下に注意!
- サリルマブ(SAR・ケブザラ®)・・・CRP低下に注意!
- T細胞共刺激阻害薬 ・・・B
- アバタセプト(ABT・オレンシア®)
- tsDMARDs ・・・B
- トファシチニブ(TOFA・ゼルヤンツ®)
- バリシチニブ(BARI・オルミエント®)
- ペフィシチニブ(PEF・スマイラフ®)
- ウパダシチニブ(UPA・リンヴォック®)
- フィルゴチニブ(FIL・ジセレカ®)
- ヒドロキシクロロキン(HCQ・プラケニル®) ・・・A
- サラゾスルファピリジン(SASP・アザルフィジン®) ・・・C
- ブシラミン(BUC・リマチル®) ・・・B
- イグラチモド(IGU・ケアラム®・コルベット®) ・・・B
- タブネオス(アバコパン®) ・・・C
- メポリズマブ(ヌーカラ®) ・・・C
考え方
医療の常ですが、リスク・ベネフィットを考えることになります。
つまり「薬剤を中止したときのデメリット」 VS 「薬剤を継続したときのデメリット」 を天秤にかけることになります。
- 薬剤を中止したときデメリット
- 膠原病が再発する可能性がある
- 中止によって薬剤の副作用が出現する可能性がある
- 入院原因が原病の増悪だった場合、これが増悪する可能性がある
- 薬剤を継続したときのデメリット
- 感染症がある場合、これが増悪する可能性がある
- 入院原因が副作用による場合、これが増悪する可能性がある
- 入院によって状態が異なる場合、薬剤の副作用が強く出現する可能性がある
- 費用の問題
これらを、もとの膠原病(原病と呼ぶ)、使用している薬剤、患者さんの状況に応じて判断していきます。
実際の対応
対応としては以下が挙げられます。
- A・・・ 薬剤を継続する
- B・・・ 薬剤を中止する
- C・・・ どちらでもよい
薬剤ごとに述べていきましょう。
副腎皮質ステロイド・グルココルチコイド
ステロイド自体の解説はこちら、ステロイドトラブルシューティングはこちら。
具体的な薬剤名では、プレドニン®、メドロール®、デカドロン®などです。(PSLなどと記載)
結論から言えば、ほぼすべての状況においてA(継続する)です。
前述のリスク・ベネフィットに当てはめてみます。当てはまるものにラインを引いてみると、
- 薬剤を中止したときデメリット
- 膠原病が再発する可能性がある
- 中止によって薬剤の副作用が出現する可能性がある
- 入院原因が原病の増悪だった場合、これが増悪する可能性がある
- 薬剤を継続したときのデメリット
- 感染症がある場合、これが増悪する可能性がある
- 入院原因が副作用による場合、これが増悪する可能性がある
- 入院によって状態が異なる場合、薬剤の副作用が強く出現する可能性がある
- 費用の問題
中止しても継続しても一定のメリット・デメリットがありますが、ステロイドの場合、入院というストレス下において中止することは相対的副腎不全を呈する可能性が非常に高いため、必ず継続します。
内服できない場合には、胃管を挿入して同量投与するか、点滴で投与する場合は、内服の2倍にします。
理由や具体的な投与方法はステロイドトラブルシューティングを参照ください。
csDMARDs
csDMARDsという用語自体は関節リウマチに対する薬剤として主に使用されますが、薬剤をグループ分けする言葉として使いやすいので、ここでは用いています。
以下のような多様な薬剤を含んだ概念です。
- メトトレキサート(MTX・リウマトレックス®)
- タクロリムス(Tac・プログラフ®)
- シクロスポリン(CyA・Cys・ネオーラル®)
- レフルノミド(LEF・アラバ®)
- 薬剤を中止したときデメリット
- 膠原病が再発する可能性がある
- 中止によって薬剤の副作用が出現する可能性がある
- 入院原因が原病の増悪だった場合、これが増悪する可能性がある
- 薬剤を継続したときのデメリット
- 感染症がある場合、これが増悪する可能性がある
- 入院原因が副作用による場合、これが増悪する可能性がある
- 入院によって状態が異なる場合、薬剤の副作用が強く出現する可能性がある
- 費用の問題
これらに共通することは体内に残る時間がある程度長いということです。したがって入院して数日の中止であれば、そのせいで大きく膠原病の病勢が増悪するということは少ないです。
それよりも入院理由が感染症であればこれを増悪させますし、入院によって腎機能低下・肝機能低下がある場合には、これによって副作用が強く出る可能性が高まります。それらのデメリットを加味すると、入院直後は基本的に中止が望ましいと言えるでしょう。
bDMARDs/tsDMARDs
これらの用語も関節リウマチに対する薬剤として主に使用されますが、薬剤をグループ分けする言葉として使いやすいので、ここでは用いています。
- bDMARDs
- TNFα阻害薬
- インフリキシマブ(IFX・レミケード®)
- エタネルセプト(ETN・エンブレル®)
- アダリムマブ(ADA・ヒュミラ®)
- ゴリムマブ(GLM・シンポニー®)
- セルトリズマブ ペゴル(CZP・シムジア®)
- オゾラリズマブ(OZL・ナノゾラ®)
- IL-6阻害薬
- トシリズマブ(TCZ・アクテムラ®)・・・要注意!
- サリルマブ(SAR・ケブザラ®)・・・要注意!
- T細胞共刺激阻害薬
- アバタセプト(ABT・オレンシア®)
- TNFα阻害薬
- tsDMARDs
- トファシチニブ(TOFA・ゼルヤンツ®)
- バリシチニブ(BARI・オルミエント®)
- ペフィシチニブ(PEF・スマイラフ®)
- ウパダシチニブ(UPA・リンヴォック®)
- フィルゴチニブ(FIL・ジセレカ®)
- 薬剤を中止したときデメリット
- 膠原病が再発する可能性がある
- 中止によって薬剤の副作用が出現する可能性がある
- 入院原因が原病の増悪だった場合、これが増悪する可能性がある
- 薬剤を継続したときのデメリット
- 感染症がある場合、これが増悪する可能性がある
- 入院原因が副作用による場合、これが増悪する可能性がある
- 入院によって状態が異なる場合、薬剤の副作用が強く出現する可能性がある
- 費用の問題
これらの薬剤は、最短で週に1回、長くて月に1回程度の投与であり、半減期が長く、数日の中止で問題なることは少ないといえます。
csDMARDsに比べて免疫を抑える作用が(あえて大雑把にかけば)強いため、入院の原因が元の病気の増悪の可能性がある場合、中止によってさらに増悪する可能性を危惧するかもしれませんが、増悪の場合の再寛解導入は(膠原病にもよりますが)基本的にはステロイドが治療の中心となるため、それでも大きな問題にはならないことが多いです。
それよりも、免疫抑制による副作用の心配が強いため、基本入院後は中止するべきでしょう。
特に注意するべき製剤として、トシリズマブ(TCZ・アクテムラ®)・サリルマブ(SAR・ケブザラ®)を記載しています。これらはIL-6を阻害することによって、CRPが0になるため、仮にCRPが0であっても感染症は全く否定できず、仮に一桁でも陽性なら激烈な感染症がある可能性があります。
(こちらでより詳細に解説しています)
また薬剤の費用が高く、関節リウマチの場合には入院中に使用すると(仮に関節リウマチの病名であっても)出来高算定となることには注意が必要です。
免疫調整薬
免疫抑制ではなく、免疫を調整して疾患をコントロールする薬剤です。
- ヒドロキシクロロキン(HCQ・プラケニル®)
- サラゾスルファピリジン(SASP・アザルフィジン®)
- ブシラミン(BUC・リマチル®)
- イグラチモド(IGU・ケアラム®・コルベット®)
- 薬剤を中止したときデメリット
- 膠原病が再発する可能性がある
- 中止によって薬剤の副作用が出現する可能性がある
- 入院原因が原病の増悪だった場合、これが増悪する可能性がある
- 薬剤を継続したときのデメリット
- 感染症がある場合、これが増悪する可能性がある
- 入院原因が副作用による場合、これが増悪する可能性がある
- 入院によって状態が異なる場合、薬剤の副作用が強く出現する可能性がある
- 費用の問題
基本的には免疫を抑える能力はマイルドであり、大きく影響を与えません。よってある程度の感染症があっても使用できることが多いです。
特に、ヒドロキシクロロキン(HCQ・プラケニル®)は、全身性エリテマトーデス(SLE)において、極めて重要な薬剤のため、使用できるなら使用を継続することが望ましいと考えられます。
他の薬剤は、中止してもしなくても大きく影響を及ぼすことが少なく、状況によってどちらでも良いことが多いです。(ブシラミン(BUC・リマチル®)・イグラチモド(IGU・ケアラム®・コルベット®)についてはこの中でも比較的副作用が多いため、中止した方がよいことがおおいです)
ほか
タブネオス(アバコパン®)
ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎・多発血管炎性肉芽腫症)において、ステロイドの量をある程度減らすことを期待されている薬剤ですが、急性期には中止が望ましいと考えます。
また1日あたり8000円程度するため、費用的にも入院中の使用は難しいことが多いです。
メポリズマブ(ヌーカラ®)
IL-5に対する抗体製剤であり、基本的には免疫抑制薬ではないため、中止の必要性は低い薬剤ではありますが、入院中に投与することは費用の問題で難しいことが多いです。(1ヶ月に1回投与で、一回50万円程度。DPCの枝はありますが、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の病名での入院になります。)
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