この記事は医療者向けです。
外来でよく遭遇する主訴として、高齢の患者さんで「全身痛」+発熱(炎症反応高値でもよい)というものがあります。
非常に多い主訴ですので、これをスムーズに初療で鑑別できるようまとめてみました。
具体的な鑑別病名は以下になります。これをどのように鑑別するか、詳説します。
- 感染症(特に敗血症)
- リウマチ性多発筋痛症(PMR)・関節リウマチ(RA)
- 血管炎(特にANCA関連血管炎、巨細胞性動脈炎)
- 結晶性関節炎
- 悪性腫瘍
「全身痛」とは何か
何か、と書きましたが、それに対する答えは私は持ち合わせていません。というのもそのような医学用語は存在しないからです。これは主訴であって、医療者はそれを適切に解釈する必要があります。(「しびれ」と似ています)
これは当然のようで、非常に重要です。主訴をわざわざカルテに記載する理由でもあり、その解釈に医療者の腕が反映されます。全身痛が、全身の関節なのか、筋肉なのか、筋膜なのか、血管炎からくるのか、それとも実は1カ所が痛いだけで「全身」と表現しているだけなのか・・・。それをプロである我々は見抜く必要があるのです。
鑑別の各論
感染症(特に敗血症)
最も頻度が高いと考えられ、その中でもよくある原因として、肺炎・尿路感染症は代表的でしょう。
最初にやることは(Generalや状況にもよるとは思いますが)ABCの評価です。
- A ・・・会話が可能か(意識障害も評価できる)
- B ・・・呼吸数、呼吸音、SpO2(呼吸音によっては肺炎を鑑別に挙げることができる)
- C ・・・末梢冷感、Mottling、CRT、血圧 (末梢をみるときにJaneway紅斑・Osler結節もみえるとよい)
上記の太字で表したものは、qSOFA scoreにあたり、ABCをとるだけで敗血症を鑑別上位に挙げることが可能です。
慣れてきた初学者の方がよくやってしまいがちなのは、感染症が疑われるので、インフルエンザ・COVID-19抗原検査、採血、尿検査、CTをセットで提出して、すべて結果が出そろってから鑑別を考えてしまうことです。
本来採血・画像検査とは、主訴・病歴聴取・身体所見を経て、必要性を吟味されるべきであり、上述の検査をルーチンで、セットのように出すことはある意味スムーズに救急外来を回せるのかもしれませんが、それでは無駄な検査が増え、結果的に治療介入が遅れることにもなりえます。
リウマチ性多発筋痛症(PMR)・関節リウマチ(RA)
リウマチ性多発筋痛症を想起するうえで重要なことは以下の2点です。
- 急性発症すること(少なくとも日の単位、時間の単位であることすらある)
- 疼痛部位が 両肩〜頸部〜上腕 + 臀部〜大腿 にあること(典型的には「朝のこわばり」を伴う)
これらを確認できれば、リウマチ性多発筋痛症として早速ステロイドを始めましょう・・・とはなりません。
リウマチ性多発筋痛症の診断には前述の感染症の除外が必要不可欠なため、まず行うべきことは炎症源・熱源の精査と、各種培養の提出です。(特に血液培養は必ず提出します。PMR疑いの感染性心内膜炎の症例は)
関節リウマチに関しても、特に高齢発症の関節リウマチの場合には大関節主体となり、リウマチ性多発筋痛症と鑑別になることがよくあります。リウマチ性多発筋痛症と鑑別になるということは、感染症の除外が必要となるということなので、やはりおなじです。
血管炎(特にANCA関連血管炎、巨細胞性動脈炎)
血管の太さにかかわらず、血管炎でも全身痛が主訴になることは、抑えておくべきと考えます。
高齢者の血管炎として頻度の高い疾患はANCA関連血管炎があり、そのなかでも顕微鏡的多発血管炎(MPA)が最も本邦では多いです。(海外ではGPAとMPAが同数)
- 疑うポイントは、以下の臓器障害を見つけることです
- 間質性肺炎 ・・・市中肺炎と鑑別が必要 (抗菌薬投与に無反応)
- 急性糸球体腎炎 ・・・尿路感染症と鑑別が必要(赤血球円柱の存在)
見事に市中の感染症の最多の原因とかぶっており、鑑別を要します。初療で鑑別上位に挙げることが難しい場合も多いのですが、抗菌薬に無反応であったり、糸球体円柱の出現がある場合には、本疾患を考慮して抗体を提出するべきでしょう。
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)は、前述のリウマチ性多発筋痛症と合併することが多い、ということは有名ですが、実は本邦では巨細胞性動脈炎自体がかなり少ないとされています。
リウマチ性多発筋痛症を合併しなかった場合でも、多関節炎を呈し、全身痛でくる可能性は考えられます。眼症状(視力低下)、顎跛行(噛んでいると顎が疲れる)などが併存する場合には考えても良いでしょう。(外来の段階では)造影CTによる評価が有用です。
結晶性関節炎
具体的には、痛風と偽痛風を指します。
典型的には「単」関節炎の原因として知られますが、例えば痛風が進行すると関節リウマチと鑑別を要するような、多発関節炎を呈します。
また偽痛風も、認知症の方であれば「どこを触っても痛がる」(丁寧に診察すれば最強点が単関節であることがわかることもある)という状況にもなりえ、全身痛として扱われてしまいます。
これらの治療は、通常まずは解熱鎮痛薬による対症療法です。逆にいえば診断できなくとも解熱していれば自然軽快するわけで、大事にはなりません。
悪性腫瘍
忘れがちですがほぼすべての悪性腫瘍でこのような主訴になり得ます。
特に血液系の悪性リンパ腫・白血病、また消化器系の悪性腫瘍(大腸癌)では起こしやすい印象です。
悪性腫瘍らしい、体重減少・盗汗・食思不振などを聴取することが、疑う点では重要です。
行うべき検査
以上をまとめると以下のようになります。
- まずはABC評価して、緊急に対応するべき敗血症を拾い上げる!
- 次に問診によって、Sick contact、リウマチ性多発筋痛症らしさ、悪性腫瘍らしさを拾う!
- 血液培養は必ず提出!(適宜血液培養3セット、尿培養、喀痰培養も)
- 適切な画像検査(造影できるなら造影を躊躇しない)
上記をやってもはっきりしない場合は
初療では鑑別に限界がある場合もおおいです。
ひとまず培養+抗菌薬を初めて、その反応性をみるのは実践的な手ではあると思います。
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