関節エコーの年齢別閾値

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関節エコーは滑膜の腫脹や炎症を「グレード」という段階で評価しますが「健常者ではどの関節でも、どの年齢層でも、グレードがつく所見はないという前提に立っています。
しかしながら、最近の研究では特定の関節においては健常人においても高頻度でグレードがつく所見が存在することが分かっており、解釈に注意が必要です。

健常人の関節において、グレード評価を見直した研究があるので紹介します。(全文は本文から確認ください、ここでは簡単に要約して紹介します)

目次

Lancet Rheumatol 2026; 8: e766–75

背景

概ね先ほど提示した通りです。

OMERACTという超音波ワーキンググループにおいて、滑膜炎や腱鞘滑膜炎といった主な関節病変について、グレースケールとドプラ所見の両方を使う定義とスコアリングを系統的に確立されてきました。
最新の高解像度超音波装置を使った研究では、関節炎症の基本病変の一部(滑膜肥厚、ドプラ信号、関節液貯留)が、症状のない健常者にも検出されうることが示されています。MRI研究でも、こうした病変が見られる頻度は高齢になるほど高くなることが示されています。そのため、十分な検研究から年齢別の正常閾値を作ることが、標準的なリウマチ診療、臨床試験のために必要です。

方法

健常成人の手・手関節・足の小関節について、超音波データを報告した臨床試験と観察研究を特定するため、系統的文献レビューを行いました。Embase、MEDLINE、PubMedを検索し、2000年1月1日〜2019年2月26日に出版された研究を対象としました。(2000年〜としたのはエコーの技術的な問題。)

297件の抄録のうち以下の理由を満たした論文を除外し、最終的に19件がレビューに含まれました。

  • 健常対照が20人未満
  • 健常対照の超音波データがない
  • MCP、PIP、手関節、MTPのいずれも含まない
  • 滑膜肥厚のグレード評価がない
  • 対照群に関節疾患がある
  • 別の論文とデータが重複している
  • 非英語論文

手順

  • 両側のMCP 1〜5、PIP 1〜5、手関節、MTP 1〜5の超音波を評価
    • 各施設のソノグラファーがEULARガイドラインに沿って実施。
  • 滑膜肥厚、関節液貯留、ドプラ信号の有無
    • EULAR–OMERACTの定義と半定量的グレード評価システムで記録
    • ドプラ信号については、基本の指針に沿って血管とも区別
  • 超音波上の骨びらんの有無
    • 両側のMCP2、MCP5、MTP5で評価

さらにこれらの画像は、すべて「セントラルハブ」に送られ、経験豊富な評価者がレビューして確認した。
統計解析については原著を確認ください。

累積95%有病率ルールを分布に当てはめて、年齢群ごとに各関節タイプの異常閾値を決定した。
つまり、分布の上位5%に入る値を、その関節の異常所見と分類した。これは国際的な慣行に沿った方法であり、具体的には

  1. 関節タイプと年齢群ごとに、超音波グレードを低い順に並べる。
  2. 観察された所見の95%以上を合わせて占めるグレードまでを正常範囲とする。
  3. 累積で初めて95%に達したグレードを正常上限とし、それより上のグレードはすべて異常とする。
    1. つまりグレード0が95%以上を占める場合にはグレード1でも異常となります。

結果

828人の参加者について適格性を確認し、病歴から自己免疫疾患、感染症、筋骨格系疾患が判明した26人を解析から除外し、最終解析には802人のデータが含まれた。

全体(N=802)18〜39歳(n=351)40〜59歳(n=302)60〜80歳(n=149)
年齢(歳)42(30〜56)29(25〜33)46(44〜54)68(63〜72)
性別
女性578(72%)232(66%)249(82%)97(65%)
男性224(28%)119(34%)53(18%)52(35%)
民族
白人644/799(81%)264/349(76%)245/302(81%)135/148(91%)
アジア系(日本人)44/799(6%)26/349(7%)14/302(5%)4/148(3%)
混血46/799(6%)25/349(7%)15/302(5%)6/148(4%)
中東系45/799(6%)27/349(8%)17/302(6%)1/148(1%)
黒人11/799(1%)2/349(1%)7/302(2%)2/148(1%)
アジア系(その他)*9/799(1%)5/349(1%)4/302(1%)0/148(0%)
炎症性関節炎の家族歴72(9%)37(11%)19(6%)16(11%)
結合組織病の家族歴13(2%)7(2%)5(2%)1(1%)
炎症性腸疾患の家族歴24(3%)13(4%)6(2%)5(3%)
喫煙状況
current smoker103/800(13%)44/350(13%)49/302(16%)10/148(7%)
past smoker121/800(15%)34/350(10%)46/302(15%)41/148(28%)
never576/800(72%)272/350(78%)207/302(69%)97/148(66%)
BMI(kg/m²、n=800)23.5(21.2〜26.5)22.6(20.4〜25.1)24.4(21.8〜28.0)24.8(22.9〜27.8)
グレード0を超える超音波所見が1関節以上†675(84%)287(82%)248(82%)140(94%)

*アジア系中国人、ベトナム人、インド人、韓国人、およびアジア系(詳細不明)を含みます。
†超音波所見は、滑膜肥厚、ドプラ信号、関節液貯留です。

ディップ先生

どの年齢においても、滑膜肥厚・ドプラ・関節液貯留で、グレード1以上の関節所見が8割以上に認められていることになります。

↓年齢群別にみた超音波グレードの全体の割合(%)

所見年齢群G0G1G2G3
滑膜肥厚18〜39歳92.306.830.860.02
40〜59歳91.017.431.480.09
60〜80歳86.6410.362.840.15
ドプラ信号18〜39歳99.860.120.02—
40〜59歳99.670.310.02—
60〜80歳99.140.640.22—
関節液貯留18〜39歳92.956.420.620.01
40〜59歳91.667.320.990.04
60〜80歳85.8412.661.460.04
ディップ先生

滑膜肥厚・関節液貯留は若年でも6%程度にG1を認めるものの、ドプラ信号はほとんど認められないことが分かります。

  • 滑膜肥厚
    • MTP関節: 年齢による差はなかったが、関節の位置によって差があり、外側(MTP5)から内側(MTP1)に向かって割合が高くなった。グレード0を超える滑膜肥厚の割合が最も高かったのはMTP1。
    • 手関節: すべての年齢層で、どの部位でもごくわずかだった。
    • MCP関節とPIP関節: 年齢が上がるにつれて、割合がわずかに増えた。
  • 関節液貯留
    • MTP関節: 年齢と関節の位置の両方で差があり、年齢群が上がるほど割合が増え、外側(MTP5)から内側(MTP1)に向かっても増えた。
    • MCP関節、PIP関節、手関節: 年齢とともに増えた。

骨びらん

MCP2、MCP5、MTP5での超音波上の骨びらんの有病率は低かった。
MCP2では年齢とともに有意に増加したが(p=0.025)、MCP5(p=0.89)とMTP5(p=0.19)では有意な増加はなかった。

利き手

利き手はセントラルハブで募集した参加者についてのみ記録され、90人中80人(89%)が右利きだった。左右差の結果は以下の通り。

  • 滑膜肥厚: MCP2を除いて有意な左右差はなかった。MCP2では、グレード1以上の滑膜肥厚が左手より右手で多く見られた(p=0.029)。
    • (筆者追記)そもそもMCP関節では滑膜肥厚がみられる割合は多くないことに注意を要する
  • ドプラ信号: 左右の関節で有意な差はなかった。
  • 関節液貯留: 右手のPIP1(p<0.0001)とPIP3(p=0.016)で、左手より有病率が高かった。

ディップ先生

滑膜肥厚はMCPで多く、滑液貯留がPIPで多いのは、MCPが滑膜のボリュームが多いということはありそうですが、滑液はよくわかりません・・・。特にPIPのほうが貯まりやすいとは思えないです。

施設間のばらつきとコンセンサスアトラスの作成

初回の解析では、MTP関節と手関節の滑膜肥厚のグレード評価に、施設間で大きなばらつきがあった。例えばMTP1では、グレード1の滑膜肥厚の割合は施設によって5%から60%まで、グレード2は0%から68%まで開きがあった。

評価の分かれた画像をセントラルハブで解析すると、特にMTP1では、滑膜肥厚が過大にグレード評価されていた。その理由として

  • 関節包が目立ち、中足骨頭を越えて基節骨に沿って広がっていた。
  • MTP関節が過伸展、屈曲の位置にあり、アライメントがずれていた。

こうした落とし穴を踏まえ、正しいグレード評価をはっきり示すため、手関節とMTP関節のコンセンサスアトラスを作成し、全施設のMTP関節と手関節の画像を、コンセンサスアトラスに基づいて中央でレビューし、スコアをつけ直した。(795人の12,696関節)(本試験の結果はこの評価を元にしている)

アトラスには、本研究の健常者の超音波画像と、BEACON研究の早期関節炎患者654人の画像が使用され、橈骨手根関節、MTP1、MTP2〜5など、グレード0〜3に分類した複数の超音波画像が使用されている。各アトラスでは、次の点も具体的に示している。

  • 関節を中間位のアライメントに保つためのスキャン時の体位
  • 関節包や陥凹部の拡大の程度
  • 滑膜組織を関節液、腱、背側板(dorsal plate)と見分ける方法
  • 滑膜組織のエコー輝度の評価方法
  • 体位による関節包の膨らみの違いが原因で判定が難しい場合の解決方法

正常値

年齢区分ごとに、分布の上位5%に入る関節を異常とみなす基準で、異常閾値を決定した。

なお、閾値を97.5%とすると、MCP 2〜3とMTP1では、ドプラ信号の閾値がグレード1になった。

ディップ先生

ドプラはすべて0が正常であることが最大のポイントです。
滑膜肥厚・滑液貯留は特にMTP1ではGrade 3からが異常値です。他の関節もGrade 1では異常値にならないものが多くあります。
MTPにおいては年齢による違いが小さく、MCP・PIP・手関節では年齢が進むと正常のグレードも増加している傾向でした。

考察

本研究は、大規模な国際健常者集団のMCP、PIP、手関節、MTPで、通常は異常とみなされる超音波所見の有病率とそのグレードを、年齢に応じて報告した。

MTP 1〜5の滑膜肥厚と関節液貯留は、ほかの関節とは異なる傾向を示し、異常とするグレードが、年齢ではなく解剖学的な要因に左右されていた。これはおそらく、荷重を受ける足の力学によるもので、足では内側が外側より大きな力を受けており、母趾は体重の最大90%を担っているためと考えられる。

臨床では、超音波の結果がしばしば診断と治療の決定を左右するため、関節ごとに年齢に応じた超音波異常の定義を明確にすることが重要である。これによって過剰・過少診断を減らすことができる。

本研究のよい点

規模
欧州、南米、アジア、中東の13か国のOMERACT超音波参加施設が協力したことで、多くの参加者を集めた。ただし、非白人の健常者の割合は16%と低めでした。世界の他の研究でも、非白人の研究参加者の割合は14%で、同程度。

グレード評価の一般化
超音波のグレード評価は慎重に定義され、プロトコールとして全施設で標準化された。重要な点として、関節の体位も標準化した。

手の変形性関節症の除外
重要な点として、臨床的に確定した手の変形性関節症のある人を除外した。これにより、臨床的な手の変形性関節症の診断に伴う変化ではなく、健常者の正常な加齢性変化と解釈することができた。

アトラスの作成
本研究では、MTP関節と手関節のアトラスを作成した。これにより、判定が最も難しい部位でも、グレード評価の標準化を高い水準で確保できる。これらの関節は、体位のせいで過大にグレード評価されやすい部位であり、そのリスクを減らすため、標準的な関節の体位と、スキャン中に関節が過伸展や屈曲の状態にあると重症度の判定にどう影響するかを、図示した。

本研究の限界

DIP関節を含めていない
本研究の主な目的の一つは、関節リウマチで最も障害されやすい関節、つまりMCP、PIP、手関節、MTPで、超音波変化の有病率を明らかにすることであったため、DIP関節は除外された。

高齢者の閾値の解釈
高齢の健常者で定めた閾値は、本当に疾患がない状態の基準値ではなく、生理的な加齢と許容できる加齢性の変性変化のバランスを表している可能性がある。また高齢の健常者に潜在的な変形性関節症があり、それが滑膜肥厚などの超音波変化の増加の一因になっている可能性がある。本研究の最大の目的は、年齢に応じた閾値を示して、こうした微細な超音波変化が炎症性関節炎の病態とみなされないようにすることである。それによって、炎症性関節炎の過剰診断と過剰治療のリスクを減らせる。

関節間の独立性の仮定
同じ人の関節は独立しているという仮定が成り立たない可能性がある。同じ人の関節はある程度は相関していると考えられ、その分、解析した関節の総数に比べて実質的な標本サイズは小さくなる。

まとめ

本研究では、MCP、PIP、手関節、MTPについて年齢別の正常範囲を明らかにした。
これは、標準的なリウマチ診療と臨床研究で超音波所見を解釈するうえで意義がある。
95%有病率ルールに基づくと、MCP、PIP、手関節、MTPのどの関節でも、ドプラ信号はすべての年齢群で病的所見を示す可能性が高いと考えられる。
逆に、関節液貯留と滑膜肥厚の年齢別閾値は、関節タイプと年齢によって違いがあった。

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この記事を書いた人

専門:膠原病リウマチ内科、内科
資格・所属:医師(MD) 
日本内科学会・日本リウマチ学会所属・大学病院勤務
患者さんから、(主に若手の)リウマチ科医師まで、膠原病・内科について広く知ってもらうことを目標にしています。皆さんで作っていくブログにしたいと考えていますので、お問い合わせフォームより、なんでも気軽にご相談・ご質問ください!

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